初春にて。
「何これ、ありえないっしょ」
 さっきの彼につられたのか、地元民だって使わないようなベタな方言で、これまた大げさに返す。
「トモヤは?」
「なんで俺が行かなあかんの」
「だって」
 彼は封筒をひっくり返してこっちに突きつける。宛名に書かれているのは、殴り書きされたような立花柚香の文字だけ。それにも、今、気付いた。私はどれだけ動揺していたのだろうか。
「それなら、トモヤのは」
 はぁ、とあからさまなため息を吐き出すと、彼はローテーブルに放ったままのスマホに視線を投げた。
「……正月早々、やたらと着信が来てる思ったら、そう言うことか」
 彼のつぶやきが珍しく怒気を孕んでいたから、私はつい怖気づく。
「……ほんま、ムカつく」
 低く吐き出すようにそう言うと、彼はテーブルの上のスマホを鷲掴んでリビングから出て行ってしまった。
 一人残された私は、スマホの代わりにテーブルへと放られた封筒を手に取る。
 私と彼の同棲は何年も前から周知の事。もちろん三角家から届く賀状も、毎年私と彼、三輪智哉の連名で届いていた。それなのに。
「なんでこんな……」
 私のつぶやきは、廊下から聞こえる荒々しい彼の声で遮られた。
「知るかっ、そんなん!」
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