初春にて。

　元々、折り合いの悪い親子なのだと、折に触れて智哉は言う。
　彼、いわく。三人兄弟の末っ子味噌っかす。本当は作る予定じゃなかった子だ、と面と向かって親に言われた時から、早く家を出てやろうと企んでいた、と笑っていた。とは言うものの、彼が国立大の工学部に進んだ辺りから、今度は親から掌返しのラブコールが始まった。
「上の二人はぼんくらすぎて当てにならん、実家の工場はお前に継がせる、嫁の宛てもついてる、とか立て続けに勝手な事を抜かすから、親に何も言わず、家から一番遠い大学の院に進んだったわ」
　からりと笑ってそう言った。
　もちろん、未だに和解はしていないし、彼の結婚云々の話も親の中では継続中らしい。
　一方、彼の実家から私の存在は、完全に無視されている。更に凛子の話から垣間見えるのは、彼をこんな北の果てまで連れ去った諸悪の根源、とも思われているようだ。
「俺に聞くなら、直接凛子か、凛子のオトンかオカンに聞けっ！」
　でも、それは強ち間違ってはいないかもしれない。彼は、はっきりとは言わないけれど、啓太に振られて落ち込む私を放っておけなかったのだと思う。
　彼は基本、優しい。生気の無い私の言動が、結果的に彼のそこへと付け入る形になったのだと思う。