初春にて。
 それと、もう一つ。私が振られた理由の半分は彼にもあると、彼と凛子の共通の友人が面白可笑しく話してくれた。その人は、凛子の手綱をアイツが制御できなかったから、立花さんが啓太にふられるはめになったんだよ、と言っていた。
 啓太が私をふったのは、遠距離恋愛が嫌という以外にもちゃんと別の理由があったのだ。
 凛子は確かに、人の物を欲しがる癖がある。
 食べ物なら「一口、ええ?」。可愛いクリップも、お気に入りだから大事に使っていた一筆箋も「ええやん、こんなにあるんやし。ちょっとだけ、な?」。
 そしてそれは、異性に対しても。
 昔から、その手のトラブルが絶えなかった彼女に唯一、まともに説教できる存在が智哉だったようだ。
 二人はあまりに小さな頃から一緒に居すぎて、お互い空気のような存在なのだと言う。それも、空気のように必要不可欠、ではなくて、空気みたいに無意識なレベル。ただ、互いの親同士が非常に仲のいい関係なだけに、やはりそれなりにそれなりの期待はされていたらしい。
 ううん、違う。今も、期待している。智哉の結婚相手というのも、凛子か彼女の妹さん。あるいは、離婚して帰って来たお姉さんかもしれない。
「やっぱ、実家に来とったわ。アレ」
 電話を終えた智哉が、私の隣にどかりと座った。凍えるほどの廊下の空気を纏った彼は、さっきまでの智哉とは違って、私が踏み込めない別の顔をしていた。
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