薔薇の夢をあなたに
「王族の力も借りるに越したことはないぞ。して、今日の訪問はいかがだったのか?」
長老はデイヴィスとロゼットを見る。











二人の表情には影があった。
「私たちは本日、月の国の王都に行ってまいりました。王族の方となんとか接触できないかと思いまして…」











「そうだったの?」驚いた。全く知らなかった…















「はい。この里からも距離はなく、たどり着くことができたのですが…」
「呪いの黒いイバラに閉ざされ、人の気配は全くなかった。」
デイヴィスは淡々と言った。













「王都は魔族の呪いによって、あちこちに石化した人々がいた、しかも瘴気がひどくて、生き物が住めるような環境ではなかった。俺たちはなんとか城まで進んだが、城壁の中は瘴気がとくに濃くなっていて、中に入ることはできなかった。」












「…ということは…」
「現状、月の国は完全に崩壊している。王族の助けを借りることは不可能だ…。」













サーシャがぐっと息をのむ音がする。長老も深く首を垂れる。「
【月の国】の王族と我らエルフ族のかかわりは古い…。10年前のあの日から、音信不通になっていたのだが、まさか…。せめて、どこかで生きていてくれれば…」













「王家は、とても優秀な一族でした…賢く、魔力も高く、民からの信頼も厚かったのに…」サーシャは苦しそうにうめく。













「早く…魔族を封印しないと…あのような光景があちこちに広がることになる。」デイヴィスの言葉に私はうなずく。
そう、私たちには時間がない…急がないと…















「【月の石】はこの迷いの森の最深部に安置されています。明日、サーシャに案内させましょう。そなたらなら正しく使って下さると信じている。」









「ありがとうございます。」私たちは深く頭を下げた。
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