薔薇の夢をあなたに
硫黄のにおいが消えた。
家が燃える音も、魔族の咆哮も、人々の悲鳴も消えた。





私たちは静かな川のほとりにたっていた。





「はぁ…はぁ…はぁ…」私たちの息遣いの荒さだけが、夜の闇に響く。





「ここ…は…?」
「僕にもわからない…、とにかくあの場から離れただけだ。」
レイはロッドを地面につき、苦しげに息を吐いている。




見渡すと、デイヴィスとロゼットも座り込んでいた。
ルビーはぬいぐるみのような姿に戻って、地面にへばりついていた。




みんな、黒い血と赤い血で不気味に濡れていた。
どうやらこの川辺には私たちしかいないようで、なんの音もしなかった。





「私たち…逃げてきたの…?」呆然とレイを見る。
「……。」うつむいたままのレイ。






「何で私たちだけ逃がしたの?ねぇ、まだあそこにはみんないたんだよ!?サーシャも、一座のみんなも?」
レイの胸元を掴んでゆする。レイは何の意思もないように揺らされるがまま。




「ねぇ!!!何で私だけここにいるの!!何で逃げたの!!何で見捨てたのよ!!?」
「ジュリエット!!!」
ビクッ!私はレイの荒げた声に驚く。





「君は自分のすべきことを…本当に分かっているのか…?」
デイヴィスがのそりと起き上がる。
「おい、やめろ、レイ。」




「ジュリエット。僕たちがサタンを封印しない限り、あの光景はどこでも起こり得るんだ。どの町が壊されてもおかしくない、どの家族の未来が奪われてもおかしくないんだ!!!




僕たちは進まなくちゃいけない、みんなの未来を守るために。投げ出すことはできないんだ!!!一時の感情に流されるな!!君は王女だ!!!」





「レイ!!やめろ!!!」
デイヴィスの声にはっとしたように、レイは唇をひきむすんだ。
蒼白な顔は、怒りとためらいに揺れていた。






「もうやめましょう。もうここから引き返すことはできないし、いったん休みましょう。」
ロゼットは優しく私の肩を抱いた。
私は血がにじむほど唇を噛んだ。
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