薔薇の夢をあなたに
「僕は…僕は…」視界がばやける。


「小さき賢者よ、そなたが強くなるまで、私がそなたの庇護者になろう。そなたの秘密を知るのはこの国で私だけだ。もう何も心配せずともよいのだ…何も気にせずゆっくり休むといい。それに、もう既にそなたがいなくなると悲しむ者がおる。」



廊下の方からバタバタと騒がしい音がする。
「姫様!!そのようなことは私たち侍女にお任せください!!」


「ううん!!わたしがレイに食べさせてあげるのよ!!だってわたしがレイに待っててねってお願いしたんだから!」
「姫様!前!前をしっかり見て!!」



ワゴンを猛スピードで転がす音が部屋の前で止まる。僕は慌てて涙の浮かぶ目元をごしごし拭う。



バタンと大きな音を立てて、お転婆姫が大きなスープ鍋を乗せたワゴンを押して入ってくる。「レイ!お待たせ!美味しいスープを持ってきたわよ!」



ニコニコ笑う姫の後ろに何人もの使用人たちがゼェゼェと息を切らしている。僕は思わず声を上げて笑う。「あははは、ありがとうジュリエット。いただくよ。」そう微笑みかけると、ジュリエットはなぜか顔を赤くしている。



「レイ、笑ってるの初めて見た、すっごくかっこいいのね…」
「どうかした?」僕は急にしおらしくなったお姫様をまじまじ見つめる。「ううん!あのね!スープのにんじんわたしがきったのよ。」
「へぇ、大事に食べるね。」
僕は穏やかな気持ちで彼女から器を受け取る。




「おいで、ジュリエット。」
国王陛下に呼び掛けられ、とことこと歩み寄るジュリエット。彼女をひょいと抱き上げると国王は言った。



「明日からレイがジュリエットの付き人だよ。お勉強もお歌のおけいこもずっと一緒に受けるように。くれぐれも二人仲良くね。」


その言葉にジュリエットがぱあっと顔を輝かせる。「レイずっと一緒に居てくれるの?わたしのおそばに?」嬉しそうなジュリエットを抱えながら国王陛下がさりげなく僕に目配せする。



僕はにっこり笑ってうなずいた。「仰せのままに、国王陛下。」
この日から僕は【太陽の国】の一員として、姫を守護する任に着いた。

< 131 / 146 >

この作品をシェア

pagetop