薔薇の夢をあなたに
「ジュリエットに何があったんだよ!!」
僕は跳ね起きて、牢の檻をつかみ叫んだ。

「ようやく起きたかよ。手のかかるガキだ。
姫さんはお前が寝てる間に魔法の訓練を始めてるよ。もう次は絶対にやられないとな。
お前と離れ離れになって三日三晩泣き続けてたけど、泣いてもどうしようもならねぇってわかってからは、自分が強くなるんだって毎日騎士団のとこきて、魔法を習いに来てるよ。もちろん陛下には内緒でな。」

ジュリエットが訓練?なぜ?
「付き人はついてないのか?僕よりもっと優秀な人間がついているはずだろう?」

団長は静かに首を振る。
「姫が全部断った。お前以外は嫌なんだとよ、あんまりにも嫌がるからいまのところは城を出ないことを条件に付き人は付いてない。本当に愛されてんだよお前は。姫の寵愛に応えんのがお前の仕事なんだよ。」

「でも…僕は…弱い。ジュリエットを守れないんだよ…。」
胸の内側がぎゅっと熱くなる。僕じゃ…僕じゃだめなんだ。

「痛っ!!」
ごつんと突然げんこつが頭のてっぺんにふってきた。あまりの痛みに僕はその場にしゃがみこむ。

「みっともねえ。男が弱いからってグズついてんじゃねえ。なーにが一度くらい負けたくらいで、ぼくはよわいだ、そんな泣き言死ぬまで言うんじゃねえ。」

「うるさい!お前に僕の何がわかる!?」

「あー、何にもわかんねえよ。俺がお前くらいの頃はもう騎士団の一員で、ちゃんと訓練受けてたからな。弱い奴の気持ちなんてわかんねえよ。」

そいつはしゃがんで、僕をにらみつける。
「レイ。お前は男だろ。惚れた女一人守れないで何が男だ。いつまでもうじうじしてんじゃねえ。悔しかったら立て。そしてこれを着ろ。」

目の前に小さな黒い団服が差し出される。
団長が来ている赤の団服と同じ刺繍が入っている。

彼の赤い団服には、黒の刺繍糸で。差し出された黒い団服には赤の刺繍糸で
太陽のシンボルが大きく刻まれていた。


「姫さんを守るのがお前の仕事だ、そのためなら何でもやれ。歯食いしばって強くなれ。俺の名はデイヴィス・マキアだ。今日から俺がお前の兄貴分になる、
俺は手加減しねえからな、覚悟しとけよバカレイ。」

僕はげんこつの反動でしりもちをついたまま。デイヴィスを見上げる。
なんて強引なやつなんだろう。

人の気持ちも考えないで、ずかずか踏み込んできて。本当に不愉快だ。
でも。僕はにやりと笑う。

「なーに笑ってんだよ。」
「ふふ、いいよ。デイヴィス。騎士団に入ってあげる。すぐに君なんか抜いてやるから覚悟しとくといいよ。」
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