薔薇の夢をあなたに
さっと立ち上がり、軽く服のほこりを払い落す。
カランと牢の扉をあけ、外にでて、デイヴィスの手から服を獲る。

「おい、クソガキ。俺のことはデイヴィスさんって呼べ!」

「んー、考えとくよ、デイヴィス。それより訓練場はどこ?体なまってるんだ、早く行こう。」

僕にできることは今は何もない。彼女に会いに行く資格もない。
それなら強くなるしかないんだ、この男はそんな単純なことを僕に教えてくれた。今のところ気に食わないやつだけど、しばらくついて行ってみよう。

またあの大好きな笑顔をそばで見るために、甘い髪の香りを誰よりもそばで感じたいから。やれることをやるしかない。

体が急に軽くなった気がした。もう二度と弱音は吐かない。
だって僕は…僕は…

「地下牢でさっきまでモヤシみたいにひょろひょろしてたくせに生意気なガキだなおい。レイ、お前いくつなんだよ。」

僕は団服のジャケットを歩きながら羽織る。真新しい革のにおいと硬いジャケットが自然に僕の背筋をただす。
「8つ。」

「なーんだ、俺よりも10こも下なのか、大分俺のほうがお兄さんだな。」
「なーんだ、まだ18なのか。デイヴィスもまだまだガキだね。」

「おい、こらクソガキ。」
「なんだよ、オッサン。」

気が付くともう青空の下だった。
僕は僕の今やるべきことをやってやる。左胸の太陽の刻印に右手を重ね、心の中の大切な姫に誓う。

二度と彼女を傷つけないために、僕はこの日騎士団に入団した。
魔法部隊「黒の団」の一員として。
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