薔薇の夢をあなたに
ジュリエットの正式な護衛になり、明日から僕は彼女のもとに戻る。

「僕のこと、忘れてないかな…。」
不安じゃないといえば、嘘になる。もう5年も前の話なのだ。

一方的な僕の片思いかもしれない。ジュリエットは一国の姫として、ずっと遠くの存在になっているに違いない。

その日は、団長に就任して初めての実践訓練の日だった。もう20試合以上こなしているが、息の乱れはまったくない。僕は誰よりも強くなっていた。
最後の相手はデイヴィスか…最近の戦績は五分五分ってところだし、今日ぐらいは勝っておきたいなあ…

僕は闘技場の真ん中で青い空をぼーっと見上げながら、そんなことを思っていた。

ふと、世界で一番を僕を引き付ける声が聞こえてきた。
見るとギャラリーの一番前にジュリエットが飛び出してきていた。
「ねぇ!!レイはどこ?レイが私の護衛をしてくれるって、お父様から聞いたの!!ねぇどこ??今すぐ会いたいの!」
走ってきたのが誰の目にもわかるくらい、髪は乱れてるし、ほっぺたは真っ赤だった。

思わず駆け寄りそうになる。
だが赤い団服をかっちり身に着け、装備も整えたデイヴィスがジュリエットの前に立つのが見えた。

「レイなら、今から俺と最後の試合ですよ、姫。赤の団長と黒の団長の試合なんて、そうなんども見れるもんじゃないんです。だから、今日は俺がレイをぼっこぼこにするところ楽しんでみてください。」
デイヴィスはニヤニヤとかっこつけて、姫に跪く。

そんなデイヴィスに、ジュリエットはここから見てもわかるくらいのふくれっ面を向けた。

「私のレイは誰にも負けないわ!5年間ずっと見てきたんだもの!レイは勝って必ず私のそばに戻ってきてくれるわ!レイー!!負けないでー!!」

そのとき、確かに彼女と目が合った。
お互いドキっとしてすぐに目線を外す。

僕はようやくここまで来た。僕は君がいたから強くなれたんだ。
僕は愛用している金のロッドを強く握りしめる。君に会ったら、言おうと決めていることがあるんだ。伝えたいことがあるんだ。

一生君のそばで君を守りたい。会ったらその気持ちをまっすぐ伝えたい。
早くそばで君を感じたいんだ。

「デイヴィス、さっさと始めよう!」
僕は大きな声で呼んだ。

大切な君の前で強さを証明して見せる。そして、また…
デイヴィスと向かい合い、お辞儀をする。
そして間合いを取り、戦闘の構えに入る。魔力を高めると、興奮はさっと引き、冷たい集中に代わる。

デイヴィスもいつもと違う僕の気配ににやりと口元をゆがめている。

「さぁ、始めよう」
そういってデイヴィスはコインを空中に放り投げた。

だけど僕たちの試合は始まらなかった。


「きゃぁあああああああ!!」
ジュリエットの悲鳴で時が止まる。魔族の襲撃が始まった。
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