薔薇の夢をあなたに
その日はなぜか全然寝付けなかった。

体も回復してきているし、信じられないくらい元気だった。

もともと朝から晩まで訓練や稽古に明け暮れていたのだ。これほどまで休んだのは本当に久しぶりだった。

「眠くないのは当然よ、全然体を動かしてないんだもん。」

そうだ。図書館に行ってみよう。あそこならきっと素敵な本があるはず。夜更かしにはちょうどいい。

私は車いすに手を伸ばして、移動した。

よし。場所は覚えているはず。

ストールをきつく体にまきつけて私は寝室を出た。

月明かりに照らされる夜のお城は思ったより明るかった。だけど、人影のない廊下は何となく不気味で怖かった。

「早くいって早く帰ってきましょう。」

ちょっとした夜の怖さを紛らわすために、独り言が多くなってしまう。

中央の大階段の前を通り過ぎようとした時だった。

「ピアノ…?」

どこか遠くからピアノの音がした…

聞き間違いじゃない。誰かピアノをひいている?

私は、階段を見上げた。

音は上から聞こえる。そろそろと立ち上がろうとしてみる。

「あ…いける…?」

つかまり立ちならなんとか行けそう。

私は車いすから降り、手すりにしがみつきながらピアノの音を追いかけた。

額に汗がにじむ。ようやく二階にたどり着いた。

「やっぱりこの階ね。」

ピアノの音がくっきり聞こえる。とても可愛らしいワルツだ。

私は、壁伝いに歩く。そして、ようやくみつけた。

「間違いない、この部屋ね。」

ドキドキしながらノックする。

…返事がない。ピアノの調べもやまない。

「気付いてないのかなぁ…」

私は思い切って扉をあけてみた。
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