薔薇の夢をあなたに
入ると、そこにはピアノに向かって座って、きょとんとした顔でこちらを見ているレイの姿があった。

「ジュリエット!?」

「あ!レイだったのね!!」

私は駆け寄ろうとした。が、大失敗した。
入り口のわずかな段差につまづいて頭から転んでしまった。

「いてて…」

「大丈夫!!?ジュリエット!!」

あわてて助け起こしてくれる。

「どうやってここまで?階段があったろう?」

大きな瞳が驚きでまんまるになってる。

「リハビリも兼ねて、自分の足でのぼってみたの。だいぶ治ってるみたい!」


「なに言ってるんだ!こんなに震えて!!」

気付かなかったけど、私の足は久しぶりの運動が堪えたようで、生まれたての小鹿のように震えていた。

「まったくどうしたの、こんな夜中に。」

レイはあきれたように言うと、足と背中に手を添え私を軽く持ち上げる。いわゆるお姫様だっこというやつだ。

「ちょ!レイ!!やだ!私重い!!!」

その言葉に少しムッとした様子のレイ。

「ジュリエット、君くらいも抱えられないほど僕は非力じゃないよ。」

その言葉通り軽々と運ばれてしまう。そしてゆっくりと、ピアノのそばの揺り椅子におろされた。

思ったよりしっかりとしたレイの体に私は心拍数があがってしまっていた。

「さぁ、ジュリエット。こんな夜中に、薄着でうろついて。しかも一人で歩くなんて無茶して、僕に何の用かな?」

少し怒ってるようなレイ。いつもみたいにこっちを見てくれない…

「あの、眠れなくて…」

「眠れなかったら君はいつもこんな無茶するの。」

「それで、ピアノの音が聞こえて…気になっちゃって…」

冷たいレイの態度になんだかとても泣きそうになる。
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