薔薇の夢をあなたに
「ごめんね、私部屋に戻るよ…」
私は逃げるように立ち上がろうとした。
「もういいよ、来てしまったものは仕方ないし。」
そっけなく返され、椅子に押し戻される。
「で、でも!」
レイの機嫌が悪いことには変わりない。見られたくなかったのだろうか…。
「ごめ「ピアノの音気になったんでしょ。」
「えっ?」
「だから、一曲だけ弾いてあげる。それで今日のところは引き上げてくれない?」
冷たい横顔だったけど、どうやら私のために弾いてくれるみたい。
レイが姿勢を正して、鍵盤に細くて白い指を置く。そして、滑らかに鍵盤を弾き始めた。
「あっ…」
私知ってる…この曲…
この曲を歌ったたことがずいぶん昔のことに感じる。
16歳の初舞台で歌った曲。切ない恋の歌…
最初はレイの邪魔をしないように軽くハミングで合わせるだけだったけど、気付いたらピアノの音色に声を重ねていた。
初めての感覚だった。
今までロゼットさんが素敵な伴奏を付けてくれていた。
だけど、レイの演奏は根本的な何かが違っていた。音楽を通して心が重なる気がした。
何もお互いのことを知らないはずなのに、通った気がする。感情があふれて止まらなくなる。
最後のピアノの余韻が消えていくのが名残惜しかった。終わったとき、はじめて自分が涙を流していることに気が付いた。
レイがまっすぐ私を見る。レイも私と同じ気持ちだったのだろうか?
私は高まる思いでレイを見つめ返す。
澄み切った青い瞳が心なしかいつもより暗くなっている気がする。
「なぜ、今の君がこの曲を知っているんだ…。なぜ…。」
やっと聞こえるか聞こえないかくらいの声量だった。
「え?」
「いや、なんでもない。さぁ、音楽の時間はこれでおしまい。部屋に戻ろう。」
レイは私を椅子から抱え上げ、そのまま部屋を出る。その顔には何の表情も浮かんでいなかった。
悲しかった。
ねぇ、レイ。
レイは私と音を重ねて楽しくなかった?
私はすごく感動したんだよ、こんなに心が揺れたのは初めてだったんだよ?
ねぇ、何でそんなに悲しそうな顔をしているの?
聞きたいことはたくさんあったけど、私は黙っていた。
レイに抱えられて、ぬくもりに触れているはずなのに、なぜかとても冷たかった。
「ジュリエット。もう夜中に部屋を抜け出すのはやめてくれ。君のためを思って言っている。」
「えぇ、もうしないわ。ごめんなさい。」
ベッドの中から返事を返す。
「車いすは明日の朝、エリーに戻させよう。それじゃあ、おやすみ。」
「はい、おやすみなさい、レイ。」
優しく前髪をなでてくれる。あぁ、この掌が好ましいと思った。
「ジュリエット…」
「なあに?」
「君はあまり僕に近づかない方がいい…と思う。いや…僕にはあまり近づかないで欲しい…頼む。」
レイはそれだけ言い残すと、返事も聞かず出て行ってしまった。
「どういう…意味…?」
それは間違いなく拒絶だった。
その日はレイのことをいっぱい考えて泣きながら、いつのまにか眠っていた。
私は逃げるように立ち上がろうとした。
「もういいよ、来てしまったものは仕方ないし。」
そっけなく返され、椅子に押し戻される。
「で、でも!」
レイの機嫌が悪いことには変わりない。見られたくなかったのだろうか…。
「ごめ「ピアノの音気になったんでしょ。」
「えっ?」
「だから、一曲だけ弾いてあげる。それで今日のところは引き上げてくれない?」
冷たい横顔だったけど、どうやら私のために弾いてくれるみたい。
レイが姿勢を正して、鍵盤に細くて白い指を置く。そして、滑らかに鍵盤を弾き始めた。
「あっ…」
私知ってる…この曲…
この曲を歌ったたことがずいぶん昔のことに感じる。
16歳の初舞台で歌った曲。切ない恋の歌…
最初はレイの邪魔をしないように軽くハミングで合わせるだけだったけど、気付いたらピアノの音色に声を重ねていた。
初めての感覚だった。
今までロゼットさんが素敵な伴奏を付けてくれていた。
だけど、レイの演奏は根本的な何かが違っていた。音楽を通して心が重なる気がした。
何もお互いのことを知らないはずなのに、通った気がする。感情があふれて止まらなくなる。
最後のピアノの余韻が消えていくのが名残惜しかった。終わったとき、はじめて自分が涙を流していることに気が付いた。
レイがまっすぐ私を見る。レイも私と同じ気持ちだったのだろうか?
私は高まる思いでレイを見つめ返す。
澄み切った青い瞳が心なしかいつもより暗くなっている気がする。
「なぜ、今の君がこの曲を知っているんだ…。なぜ…。」
やっと聞こえるか聞こえないかくらいの声量だった。
「え?」
「いや、なんでもない。さぁ、音楽の時間はこれでおしまい。部屋に戻ろう。」
レイは私を椅子から抱え上げ、そのまま部屋を出る。その顔には何の表情も浮かんでいなかった。
悲しかった。
ねぇ、レイ。
レイは私と音を重ねて楽しくなかった?
私はすごく感動したんだよ、こんなに心が揺れたのは初めてだったんだよ?
ねぇ、何でそんなに悲しそうな顔をしているの?
聞きたいことはたくさんあったけど、私は黙っていた。
レイに抱えられて、ぬくもりに触れているはずなのに、なぜかとても冷たかった。
「ジュリエット。もう夜中に部屋を抜け出すのはやめてくれ。君のためを思って言っている。」
「えぇ、もうしないわ。ごめんなさい。」
ベッドの中から返事を返す。
「車いすは明日の朝、エリーに戻させよう。それじゃあ、おやすみ。」
「はい、おやすみなさい、レイ。」
優しく前髪をなでてくれる。あぁ、この掌が好ましいと思った。
「ジュリエット…」
「なあに?」
「君はあまり僕に近づかない方がいい…と思う。いや…僕にはあまり近づかないで欲しい…頼む。」
レイはそれだけ言い残すと、返事も聞かず出て行ってしまった。
「どういう…意味…?」
それは間違いなく拒絶だった。
その日はレイのことをいっぱい考えて泣きながら、いつのまにか眠っていた。