薔薇の夢をあなたに
また朝が来て、夜が来て、朝が来た。

変わらずエリーはよく世話を焼いてくれたし、レイも変わらず癒しの魔法をくれた。

だけど、レイはあの晩以来、私にどこか一線をひくようになってしまった。あの美しい笑顔もしばらく見ていない。

「エリー、レイって二重人格なの?」

昼食の時、私は一つの仮説をぶつけてみる。

「レイ様…がですか???いえ!いつもお優しくて聡明で素敵な方ですよ!!」

「でも!最初の時と全然違うの…最近はどこか冷たくて、さびしそうな目をしてるの…」

「うーーーん。私も長くレイ様にお仕えしている身ですが、二重人格だと感じたことは一度もございませんよ。」

「そう…なのね…」

なんでレイはあんなことを言ったの?
私を助けたことを後悔してる?
私がレイを傷つけてしまったのかな…?


むにっ。

「ちょ、あにふるにょ?(何するの?)」

「そんな悲劇のヒロインみたいな顔をしてはいけません!!」

突然、エリーが小さな手のひらで私の両頬をつまむ。

「いいですか、相手のことが分からないのなら、そういう時こそ会ってお話しすべきだと思いますよ!」

エリーが鼻と鼻とがくっつきそうなほど、近くで喋る。

「私も夫とはよく喧嘩しますが、
どんな時もちゃんと面と向かってお話をします!!そうしないとお互いのこと、何もわからないでしょ?」

「エ、エリー?」

あまりの剣幕にたじろぐ。

「ジュリエット様は一人でずーっとあれこれ考えて、物思いにふけるばかり!!せっかくのお美しい顔が台無しですわ!

レイ様と上手くいってないならぶつかりに行ってきなさいな!!そう!女は度胸ですわ!!!」

バチンと頬を離される。私はおそらく赤くなっているであろう頬をさする。

「エリー…ふふっ…ん…ははははは」

「ジュリエット様??」

急に笑い出した私はよっぽど変だったのだろう、今度はエリーがきょとんとしている。

「そうね、一人で思い悩んでても仕方ないわよね、ふふ…私らしくなかったわ、一座ではいつも行動あるのみだったわよね。

…うん…色々あって自分を見失ってたのかもね、ふふふ…あははは…」

なんだか、すっかり面白くなってきてしまった。

エリーは頬を赤らめながら

「ジュリエット様、先ほどの非礼どうかお許しを…」

とただでさえ小さい体を縮めている。

「じゃあ、これでお互い様ね?」

私はエリーの頬をつまむ。

「いひゃい!(痛い!)」

「ふふ、これでお互い様よ。ありがと、エリー。私もう悩むのをやめるわ!さぁ、そうと決めたらやることはいっぱいよ!!手伝ってほしいことがあるの。」

もう、悩むのはやめよう。

私を助けてくれたあの不思議な魔法使いと
もっとちゃんと向き合ってみよう。

私が傷を負っているように、きっと彼にも何か大きな傷がある。そんな気がする。

私だって癒しの魔法は得意なのよ!やってやるんだから!

その日の午後は急ピッチで作業をした。

「これなら、きっとレイ様もお喜びになりますよ!」

「ありがと、喜んでもらえるように頑張るわ!そのためにも、明日は絶対レイに会うんだから!エリー、よろしくね!!」

「もちろん!ジュリエット様が無事お会いできるように計らいますわ!!」

夜が来て、癒しの魔法の時間になった。

「おやすみ、ジュリエット。」

「ふふ…お休みレイ…。」

不自然に笑う私に、レイは気付いたようだったが、そのまま部屋を出て行ってしまった。

そうやって、私のことを無視していられるのも今のうちなんだから!!
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