薔薇の夢をあなたに
それはとてもこの世のものとは思えない光景だった。
月明かりに照らされる何万本ものバラは夜風に揺れ、たまに強く吹く風は美しい花びらの舞を見せてくれる。






この美しさを表現する言葉を、私は知らなかった。







「久しぶりだ…こんなにきれいな月夜は…主の帰還を喜んでいるのかな…」








レイの人間離れした美しさも加わって、私は別世界を歩いているような錯覚を味わっていた。
レイを見つめていると、ふと気づいたようにこっちを見て妖艶な笑みを向けてくる。
ふいの笑顔に心拍数があがり、私は話をそらそうとした。








「れ、レイ!?あっちには何があるの?」
私は少し離れたところにあるバラのアーケードを指差した。
アーケードの先はちょうど茂みに隠れてよく見えない。







「あ、あそこは…」ふっと表情が曇るレイ。
しばらくの沈黙の後、彼は口を開いた。










「あちらは、国王夫妻の墓地です。」
私たちの間を一陣の風が通り過ぎた。










「…またあちらへは改めて参りましょう、今日はこのあたりで戻りましょう…。」
レイは私の肩を抱き、城へ歩き出そうとした。








「…行きましょう。」自分でもびっくりするくらいかすれた声だった。
レイの手を振りほどいて、私はアーケードに向かって歩き始めた。








「ジュリエット様!?」レイの制止も聞かず、私は何かに憑りつかれたようにアーケードへ向かった。








くぐりぬけた先は、小さな広場だった。
さきほどのバラ園と同じように、数えきれないバラたちが咲き乱れていた。







たった一つだけ違うのは中央に冷たい墓石が横たわっていることだけだった。
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