薔薇の夢をあなたに
鎌首をもたげ、こちらを見つめる姿は
本当に絵本にでてくるドラゴンそのものだった。






真っ赤に輝くウロコにびっしり覆われた尾がゆっくり揺れている。
私、あの尾に薙ぎ払われたんだ…。








「サタンを封印するために、必要なんです!!」
私は必死の思いで祭壇に駆け戻る。
氷のシールドを張り続ける魔力はほとんど残っていなかった。









祭壇には小さな炎のトカゲたちが躍り出てきていた。
とびかかってくる無数のトカゲたちは
私を祭壇から追い払おうとする。







私はレイピアを抜き、応戦する。
二本のレイピアを舞うように扱い、トカゲたちを炎の海に投げ飛ばす。












「サタン…サタンを封印してお前はどうしたいのだ?」
私が戦っていることなどお構いなしのように、ドラゴンは詰問する。









「そ…それはっ!」私は手を休めずに応えようとした…だけど…












あれ…、私何のために戦ってるの…?












「意思のない者が力を持つことは危険だ…小娘…早急に去るが良い。」
「いやです!私にはやらないといけないことがある!
これは私の…使命だから!!」












急に襲ってくるトカゲの数が増えた気がする。
何体かはブーツで思い切り蹴とばした。











「お前は何のために戦う…?このままでは炎に焼かれて死ぬぞ。」
ドラゴンの言うとおりだった。
数の差に耐えかねて、私は祭壇のふちまで押しやられていた。
髪がこげる嫌なにおいがする。






嫌だ…死にたくない…だって…私は!
「ジュリエット…信じている…」
突然レイの声が聞こえた気がした。







…レイ?レイ…会いたいよ…、私、美しいあの瞳を…









「だって、待ってくれている人がいるから…」
その瞬間、私の脳裏に大切な人たちの顔が浮かんできた。
お父様、お母様、一座のみんなにロゼット、デイヴィス。
そして、大好きなレイ…。










「どうしても守りたいものがあるの!」
私はトカゲたちの頭を踏み越えて、ドラゴンのすぐそばまで一気に駆け抜けた。
巨大な頭をぐっと見上げて私は訴えた。









「ドラゴンさん。お願いです。どうか私に石を貸してください。
守りたいものがあるんです。






大切な人たちを悪魔から守りたい、この国の人々に笑顔を取り戻したい…、そして、私がその幸せな世界で生きていきたいと願うから…」










「…それが汝の願うものか?」
「はい。私はみんなの笑顔を、幸せな世界を願います。
そのための力を…どうか…」






暑さで意識が朦朧としてきていた。ここで気を失うわけには…
私は目の中に入る汗も構わず、ドラゴンの静かな瞳を見つめた。






その瞳が一瞬優しく光ったような気がした。









「よかろう…汝の決意受け取った。」
部屋の真っ赤な火炎が消えていく。









「太陽の姫よ、そなたの優しい決意伝わったぞ。
汝は穢れなき魔力と勇気、そして優しさを
しかと我に示してくれた。我は、汝を主と認めようぞ。」







ギィーっと扉が開く音がした。振り向くと、先ほどの扉が大きく両側に開いていた。

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