薔薇の夢をあなたに
「ごめんなさい!ちょっと通して!!」

私は人垣をかいくぐって、進む。

お世辞にも身長が高いわけではない私は、ヒールに踏まれながらもなんとかレイのもとまで、たどり着く。

「レイ!帰るよ!!」

レイが驚いたように私を見る。

「ジュ!?…ジュリエットじゃないか!」
舞台衣装できらきらしたレイは近くで見るとかなりまぶしかった。

「何よあんた!」

「いきなり何の用!?」

怖い女の子たちの脅しをスルーして、私はぴょんとレイの隣に滑り出た。

コホンと咳払いして喉を整える。
そして恭しく礼をしながら、最上級の歌姫ボイスで周りに呼びかける。

「皆様本日はご観劇いただき、ありがとうございました!
今宵のお戯れはここまで。どうかまたの御来場お待ちしています!」

私は自分にできる最高の作り笑顔を振りまくと、レイの腕をつかんで、なんとか黄色い声援を引きはがした。

「ジュリエット…どうして?」

驚いた様子のレイ。私はバッと振り返る。


「いい、レイ。芸人の先輩として教えてあげる。あんまりしつこいお客様は多少強引に振り払ってよし!」

私はレイのおでこに指をつきつける。


「は、はい。」
レイはおでこをおさえて、きょとんとした顔でうなずく。


「ふふっ。」
その仕草がとても愛らしくて笑ってしまう。

「レイ、いつもお疲れ様。もう遅いしテントに戻ろう?」

私はレイの手をひいてそのまま戻ろうとした。
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