月明かりと薄桜 -誠の絆-
周りを見渡しても何もない
荷物も、何も。
制服のポケットに入れてたはずの
携帯すらないから確かめる術もない
とりあえず…外に出てみよう
私は布団をたたみ、小袖に袖を通した
薄ピンク色の布地に
紫色の桜がはらはらと散りばめられていた
「ちょっと出かけてくるね」
そう言って私はかけ出した
後ろからは
"気をつけてなあ"
呑気なお父さんの声。
ガラガラと戸を開けると
目に入った一本の桜の木
それはあの日見た本に描かれた桜みたいで
風に吹かれては儚く散っていくものだった
その綺麗さに目を奪われて
気づけばその桜の木の下で
高く空に伸びる枝たちを眺めていた
こんなきれいな桜
いつぶりに見ただろう?
通りすがる人たちは
そんな私をチラチラ横目で見ていく
その人たちはやっぱり
昔の身なりをしていた
本当に、タイムスリップしたのかもしれない
「りんっ」
また聞き覚えのある声が聞こえてくる
「いち…か?」