月明かりと薄桜 -誠の絆-
「そうかい…良かった」
さっきよりも優しく安心しきったその人は
ゆっくりゆっくり
瞼を閉じた
ねえ…嘘でしょ…?
嘘だと言ってよ…!
「誰か、誰か医者はいませんか!!」
今出せる精一杯の声を振り絞って
周りに声をかける
けれども野次馬たちは困った顔をして
"自分には関係ない"
そう言いたげに足早に去ろうとしていた
「さあ行こうぜ」
「早く行くぞ…!」
それでも浪士たちは
無理矢理にでも私を連れて行こうとする
再び掴まれた右手
お父さんを殺したその手で私に触らないで
どうして、お父さんを斬ったのよ…
悲しみにくれて頭の中では抵抗するものの
実際に抵抗する力も残ってない
人は皆都合のいい生き物
都合の悪いことには目を向けず
私には関係ない"
ってそう自分に言い聞かせて
自分を正当化するんだ
"私は何も悪くない"
って
ただただ流れるのは
頬から流れる赤い液と
目から零れ落ちる透明すぎる涙だけだった