今宵も、蒼月に誘われて
…チリン、
どこかで懐かしい音がする。
誰もいない暗闇の中、静かに、けれど確かに聞こえるその音に遠のいていた意識が徐々に戻ってくる。
バタバタと聞こえ始める誰かの慌ただしい足音、襖を開ける音、そして聞きなれない低い低音。
柔らかな陽が顔に差し掛かり重い瞼をそっと上げると視界に移ったのは木目が美しい少し古びた天井。
首だけを動かして目をぱちくり。
壁に掛けられた掛け軸も、不思議な色合いの壺も日本の刀が置かれた刀掛台も。全て見たことがないものだったから。
「…ここは、どこ…?」
ポツリと呟いた一言は誰もいない部屋の中に溶けていった。