今宵も、蒼月に誘われて

「柳の木の中…?」

確かに記憶の最後に残っているのはあの大きな柳の木。それに蒼く照らされた月と…鈴の音。

「…私は昨夜、琴のお稽古の帰りに夜の京都の街を歩いていました。昨夜はなんとも綺麗なブルームーン…蒼い月が見えていまして、月見をしながら帰り道を歩いていました。曲がり角の大きな柳の木のそばに通りかかった時微かな鈴の音が聴こえました。私以外には誰もいないはずの小道からチリンチリンと何だか懐かしい音が。振り返っても猫一匹すらいなくて、ふと見上げた柳の木に手を伸ばしたところで意識を手放したようです。そこから先は何も覚えていません」

真っ直ぐただただ、土方さんの瞳を見つめる。

「そんな馬鹿げた話、誰も信じませんよ。早く事実を言わないと切っちゃいますよ?」

そう言って真剣の刃を私の首元に沿わせる沖田さん。普通信じないだろう。疑われても仕方ない。でも

「事実なんだから仕方ない。宗次郎さん」

びくりと肩を揺らした彼の振動が首筋に触れてピリッとした痛みが伝わる。

「…私は152年後の未来から来ました。あなたの幼少の名も、これからあなた方に降りかかることも全て知っています。今のうちに殺しておけば問題は起きないでしょう。…私の存在から未来が変わることもなくなるでしょう」

殺すなら一思いにお願いします。

そう言って静かに目を閉じた。
< 19 / 29 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop