今宵も、蒼月に誘われて
隊士side
「おい見ろよ、凄い色っぽくね?」
「本当だ、相模さん綺麗…」
酒をチビチビと煽る彼女の白い頬が薄っすらと色づき始め、艶のある唇には更に鮮やかな色が入る。ふっくらとした紅い唇に伏せ目がちな大きな瞳。妖艶な雰囲気を纏う屯所唯一の花が広間の視線を一身に集めていた。
その様子にほだされてしまったのは一般隊士だけではない。彼女を囲う幹部の男達もまたその甘美な空気に惑わされかけていたのだ。
が、そんなこととうの本人は露知らず。
「蒼ちゃんヤバいね」
「だが、相模は酔っているわけではなさそうだぞ」
そう。
彼女は決して酔っているわけではないのだ。寧ろ素面に近い。
酒を勧めてくれた沖田と楽しそうに筋の通った会話を続けることができているのだから。
平助は斎藤の言葉に肩を落とすと
「それもっと厄介じゃん」
と言葉をこぼした。