「恋って、認めて。先生」
1 まさかのシグナル
「今日から皆さんの担任をさせていただく大城飛星(おおしろ・あすな)です。担当教科は現代文になります。教師になってまだ三年目と経験は浅いですが、少しでも皆さんの力になれるよう精一杯やりますので、よろしくお願いします」
新学期。3年A組の教壇で、私は、明るすぎず落ち着きすぎない声音で自己紹介をし、教え子となる皆の顔を見渡した。
「それでは、さっそくですが出欠を取るので、名前を呼んだら返事をして下さいね。足立雪也君」
「はい」
「井川愛さん」
「はい」
真新しい名簿を片手に、私は生徒達の名前を順に読み上げていった。それぞれ、その子らしい個性のにじんだ声音で「はい」と返してくれる。
当然の光景かもしれないが、素直に返事をしてくれる生徒を前に私はおおげさなくらいホッとしていた。
ここ、公立の南高校で教師になって早三年。仕事にも何とか慣れ、今年度、初めてひとつのクラスを任されることになった私は、内心緊張しながら教壇に立っていた。
今年担任を務めることになったのは、3年A組の普通科クラス。
現代文担当の私はこれまでの二年間、各クラスの授業で教壇に立つことはあったけど、自分のクラスを受け持つというのは初めてでドキドキするし、教師としての責任も問われるのだろうし、やっぱり特別なことに思える。副担任だった今までは本当に気が楽だった。
でも、生徒の前でそんな素振りを見せるワケにもいかず、私は平然を装った。名簿に視線を落とすことで、何とも言えないこの気持ちをまぎらわす。
高校生活は、誰にとっても楽しく充実したものであってほしい。生徒達が有意義な学校生活を送れるように、少しでも力になれたらいいなと思う。
名簿の読み上げも後半にさしかかった頃、背筋がヒヤリとしてしまう出来事が起きた。
「ひなもりゆう君」
比奈守夕。名簿に書かれたとある男子生徒の名前を読み上げると、
「ユウじゃなくて、セキです」
比奈守夕なる男子生徒のぶっきらぼうな声が私の間違いを指摘した。元から緊張状態だったのもあり、頭の中でパニックしてしまう。冷静になれ、冷静に…!
「えっ……?あ、はいっ。ひなもりせき君、ですね。間違えてごめんなさい。しっかり覚えますね」
比奈守夕と書かれた名前の上にボールペンで《セキ》とフリガナを書き込み、私は彼を見た。
比奈守夕(ひなもり・せき)。年齢のわりに大人びた雰囲気をまとい冷めた目つきをしている。整った顔立ちのせいで、取っつきにくい感じがする少年。
彼への気まずさを含みながら抱いた、それが彼への第一印象だった。
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