「恋って、認めて。先生」
他の授業だと先生の代わりなんて利かないので自習になってしまうけど、うちの高校の体育の場合、井本先生の代わりにプールで監督する先生が二人確保できれば、予定通り水泳の授業を行える。
「私も、時間割確認してみます」
私は言い、永田先生に背を向け今日の授業予定を調べた。
「1時間目と5時間目なら、空いてます」
「本当!?ちょうど1時間目、3年A組とB組の男子で水泳の授業があるから、大城先生、出てくれる?女子にはエアコンのある視聴覚室で自習ってことにしてもらうから」
永田先生が安堵の表情で言った。
A組!?比奈守君のいるプールの授業!?
「はい、任せて下さい!」
勢いよく返事することで、動揺をごまかした。
その後すぐ、共に監督をする先生がもう一人決まったので、私はその先生と一緒に屋外へ出た。予備にと学校に置いておいたジャージに着替えたので、いつもの服装より動きやすい。
その先生はB組を、私はA組の監督を担当することになった。ということは、比奈守君の水着姿を見なければならない。この役割分担に内心ドキドキし、それはまずいよと思いつつ、
「大城先生はA組の担任をしてみえますから、ちょうどいいでしょう」
という、他の先生方の意見にさからう勇気もなかった。
「あっちゃんだ!何で!?」
プールサイドに着くなり、A組の男子生徒達がざわつき始めた。その中で、静かにこちらを見てくる比奈守君の視線に気付かないフリをし、私は言った。
「体育の井本先生がお休みすることになったので、今日は私が代行で皆の授業を見ます」
「井本先生休みかあ」
健康体が常の井本先生が欠席という珍しい出来事に、しばらくの間皆はざわついていたけど、じょじょにこの状況に慣れたのか、いつものようにシャワーを浴び消毒層に向かった。
比奈守君が何度かこちらに視線を送っているのを感じたけど、水着を着ている彼の方を、私は見ることができなかった。見てしまったら、あの夜を思い出してしまう。
夜中に何度か連絡をくれていたからそのことを気にしてこちらを見てくるんだと思うけど、それでも……。
水泳の監督をするなんて赴任して以来初めてのことなので、生徒が溺れたりケガをしたらどうしよう、上手く対応出来るのだろうかと不安もあったけど、そんなことはなく、何とか無事に1時間目が終了した。
太陽の光に当てられやや赤くなった肌を見て、日焼け止めを持ってきていなかったことを後悔する。シミになりませんように……!
比奈守君の彼女である以上、少しでも彼にふさわしい自分でいたいと思った。
今後こういうことがあった時のために必ず日焼け止めを学校に置いておこうと決意しながらプールサイドを出る時、違和感を覚えた。
……さっきまで首にしていたはずのネックレスが、ない。