「恋って、認めて。先生」
比奈守君からもらった、初めてのプレゼント。プールサイドのどこかに落としたのかもしれない……!
監督をしていたもう一人の先生が職員室に戻り、皆が更衣室に入っていったのを見送り、私はプールに引き返した。
どこに行ったんだろう……!?
見つかるまでゆっくり探したかったけど、次の2時間目には自分の授業があるので、5分も探していられなかった。
誰かが見つけて落し物として職員室に届けてくれていたらと願う一方、細かい物だからゴミとして捨てられてしまう可能性もある。その前に何とか見つけたい……!
その日はずっと、何をしていてもネックレスのことが頭から離れなかった。
しまいには、A組の現代文の授業で、生徒に教科書の物語を朗読させたままストップをかけないというミスまでしてしまった。
「あっちゃーん?けっこう読んでるけど、もう終わりでいいんじゃない?」
生徒にそう指摘されて、ようやくハッとした。
「ごめんね!ボーッとしてた……。もういいよ、ありがとう」
近くの田宮君が小声で「大丈夫?」と訊いてきた時、大丈夫だと気丈に答えてはみたものの、ちっとも大丈夫ではなかった。
比奈守君は安物だと言ったけど、私にとってあのネックレスは世界遺産にも勝る世界でひとつの宝物だ。なくしたなんて、自分で自分が許せない。
昼休みになると、私は一目散にプールへ向かった。お腹は空いていたけど、昼食どころではなかった。
途中の廊下で永田先生とすれ違い、
「どうしたの?そんなに慌てて」
と、目を丸くされたけど、
「いえ、何でもありません、大丈夫です!」
早口にそう答え、私はその場を後にした。
昼休みのプールなら人はいないし、時間もあるからゆっくり探せる。
暑い床に四つん這(ば)いになり、手足が焼けそうになるのを感じながらくまなくネックレスを探した。日焼けしてもいい、絶対、昼休み中に見つけてみせる!
40分後ーー。必死の捜索もむなしく、ネックレスは見つからなかった。
「どうして……?」
プールサイドはくまなく探したし、更衣室やシャワーの辺りなど、監督中に自分が歩いた所は全部見た。それでも、ネックレスはどこにもなかった。
「比奈守君が、せっかくくれた物なのに……」
夏のコンクリートの匂いに混ざった消毒臭を感じ、ドッと疲れが湧いてくる。とめどなく汗が流れ、メイクもほとんど落ちてしまっていた。
5時間目開始の予鈴が鳴るまで放心していた私は、風でゆらゆら揺れるプールの水面を見てハッとした。
「まさか、そんな……」