「恋って、認めて。先生」
「ごめんね……。1時間目にどこかで落としたみたい……。昼間からずっと探してたんだけど、まだ見つからなくて……」
「だからって……。風邪ひいたらどうするんですか?先生冷え性なのに」
「心配かけてごめんね……」
昼間に大量の汗をかいた反動なのか、今、水の中に浸かっていると寒気がした。空気は蒸し暑いのに、体は完全に冷えている。
比奈守君はプールの中から私を引き上げ、自分の制服が濡れるのも気にせず水着姿の私を抱きしめた。優しいぬくもりが、すぐに寒さを忘れさせてくれる。
「やっぱり冷えてる……。もう、こんなことしないで下さい」
「ダメだよ……!今日はもう諦めるけど、明日朝一番に来てまた探すからっ!」
比奈守君の体を引き離し、強い視線で私は言った。
「多少寒くても、日焼けしても、そんなのかまってられなかった。だってあれは、比奈守君がくれた物だから!私にとっては、自分の体調なんかより大事な物なの!」
「先生……」
困ったように視線を下げ、比奈守君は再び私を抱きしめてきた。今度は、私が引き離せないくらい強い力で。
「先生の体より大事なものなんて、あるわけない……!」
「比奈守君……」
「先生のそばには俺がいる。ネックレスがなくなったって、それは変わらない。それでも先生は不満……?」
「不満なんて、そんな……」
比奈守君の体温が、言葉が、体中に染み渡る。ネックレスを諦めるのはつらいけど、比奈守君の存在あってこそのネックレスだったのだと、この時気付いた。
月明かりに照らされ、暗い中でも、お互いの顔がはっきり見える。
学校のプールサイド。自分の置かれた状況も忘れて、私は自ら、比奈守君の首に両腕を回しキスをせがんだ。今、どうしても、彼と触れ合いたい。
「来て、夕」
「飛星……」
学校では決して口にしない。そう決めていた名前を呼び合うことで、私達は想いを高め合う。蒸した夜の空気と濡れた体に、じっとり熱がこもった。
「そんなキスされたら、我慢できなくなる……」
「アパート、来る……?」
「でも……」
ためらいつつも濡れた瞳をする比奈守君を前に、私は今ここで脱いでもいいくらい、気持ちが高まっていた。比奈守君もきっと、同じ気持ちだったと思う。
そんな熱を一瞬にして奪ったのは、私達を見つけた男性の声だった。
「そこまでにしなさい」
不審者を牽制するかのような厳しい声。それは、もうとっくに帰ったはずの、永田先生のものだった。