「恋って、認めて。先生」

 図星だったらしい。

 だけど、今その件に触れたのはまずかったみたいだ。

「愛し合ってる最中に他の男の名前出さないで?俺のことだけ見てよ」
「ごめんね。夕のことだけ見てるよ」
「ううん、俺こそごめん。ムキになってた……」

 しおらしい口調とは裏腹に、私の反応を良くしようと、優しく、激しく、抱いてくれる。体のつながりを通して、不安だけでなく、彼のあたたかい心も伝わってくるようだった。

「こんなに大事にされたの、初めてだよ。きっとずっと忘れないから」

 エッチに関してだけじゃない。普段から比奈守君は私のことを大切にしてくれる。意地悪で計算高くて卑屈なところもあるけど、そういう部分も含めて大好きだ。

 想いは、口にしないと伝わらない。察しのいい比奈守君に、私こそずっと甘えてた。

 ただでさえ私達の恋は壁が多いのだから、よけいなすれ違いを生まないように、私も努力しなきゃいけないんだ。

「……口にしたら全て壊れてしまいそうで、こわかったの。私、恋してる。夕のこと、生徒じゃなく男の人として大好きだよ」
「飛星……!」

 比奈守君は驚いたようにじっと私の顔を見つめた。

「今まで私のせいで不安にさせてたと思う。ごめんね」
「ううん、いい。そういうの、今ので全部吹き飛んだ!」
「やっ……!」

 それから私達は、心に出来た隙間を埋め合うかのように抱き合った。


 何度か抱き合った後、汗ばむ肌もそのままに、私達は裸のままベッドに横になった。

 比奈守君の腕まくらが、幸せで心地いい。


「悔しいけど、あの人の言う通りだよ……」

 比奈守君は言った。あの人とは、永田先生のことらしい。

「俺は子供で、自分のことしか考えれてない。さっきもそう……。飛星のこと、いざとなったらちゃんと守れるのかどうかも分からない。好きになればなるほど、傷つけることしかできないのかもしれない」
「そんなこと考えてたの……」

 帰り際ずっと無言だった彼の横顔を思い出す。

「飛星、昨日店で、ウチの親と話したんだよね。親から聞いた」
「黙っててごめんね、会ったら話すつもりだったの」
「ううん。謝ることない。俺の方こそ、謝らなきゃいけないんだから」
「どうして?」

 私を強く抱き寄せ、比奈守君は言った。

「飛星、俺の親に、俺と付き合ってること何度も謝ってたって……。そんなことさせたくて付き合ったわけじゃないのに、俺……」
「ううん、立場を考えたら当然のことだもん。私は平気だよ」
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