「恋って、認めて。先生」

「でも、そういうことで飛星に負担かけたくない」

 私が比奈守君のご両親に交際を認められた後、彼はご両親にひどく叱られたそうだ。

「『先生は悪くない、どうして卒業まで我慢できなかった、先生に迷惑かけたって大した責任も取れないクセに』ーー父さんにそう言われました。母さんは飛星のこと好きだから頑張ってみたいな感じであっけらかんとしてたけど、あんなに怒った父さん見るの子供の時以来だった」

 私の前ではライトな発言をしていたお父様がそこまで怒るなんて、とても想像できなかった。比奈守君も、少なからずそのことに衝撃を受けているみたいだ。

「飛星のこと好きになって、告白して、断られて、ラインするようになって、エッチして……。そういう時いつも、卒業までは我慢しないとって頭の片隅では思ってたのに、全然ダメだった。飛星のこと見てると関わりたくなるし、ラインしてると声が聞きたくなる。会えばキスしたくなるし、一緒にいたら離れたくなくなる……。悔しいけど、永田先生の言う通り、俺は身勝手で子供だよ」
「夕が子供で身勝手なら、私もそうだよ」
「飛星は大人じゃん……。俺なんかより全然……」
「ううん。子供だよ」

 比奈守君の胸に両手を置き、私は彼にキスをした。

「私も同じ気持ちなんだよ。夕の恋人になれて、毎日連絡取り合って、こうやって二人で過ごせて、すごく幸せ」

 自然と笑顔になる私を見て、比奈守君は困った様に笑みを返した。

「前から分かってたけど、飛星がモテるの、分かる気がする。すごい嫌だけど」
「そんなこと言ったら、私だって心配なんだよ?」

 C組の女子生徒が比奈守君への告白を考えていることを思い出し、私はハッと口をつぐんだ。洗いざらい話してしまいたいけど、教師として、生徒の恋愛感情を言いふらすなんてダメだと思った。

「急に黙って、あやしい。何が心配なの?」
「何でもないっ!この話終わり!」
「ふーん。意地でも言わない気なんだ」

 わざと意地悪に目を細め、比奈守君は私の首すじに舌を這わせた。

「言うなら今のうちだよ?俺けっこうしつこいから」
「いや、だめ……!もう許して?」
「どうしよっかなぁ……」

 からかうように私の体をまさぐり、やめてくれそうにない。口では嫌だと言っていても、本音では嬉しかった。

 どんな意地悪をされてもいいから、たくさん触れて、愛してほしい。

 比奈守君の指先が私の肌を滑るたび、私は彼に恋をしていると感じたし、女に生まれてよかったと心から思えた。

 不安や嫉妬はこれからも消えそうにないけど、好きの気持ちは知らないうちにこんなにも大きくなっていた。
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