「恋って、認めて。先生」
「飛星も!お互い幸せになろうな」
何か言いたげに視線を泳がせたものの、それ以上謝ってきたりはせず、ヨシは手を振り彼女さんの方に歩いて行った。
ヨシは、私と付き合ってた時より大人っぽくなった気がする。彼女さんの前で笑顔を見せるヨシは、私といた時より幸せそうに笑うんだなぁと、この時思った。
比奈守君と知り合う前も、今も、心のすみっこでヨシとの別れをずっと引きずっていたけど、今日でそれも完全におしまい。
もう、過去を振り返るのはやめよう。完全に忘れてしまうなんて無理だけど、今の私があるのは過去のおかげだ。
花火大会で賑わう会場を見ながら心の中でそんなことを考えていると、琉生が戻ってきた。ラムネやタコ焼き、わたあめなど、色々買ってきてくれた。
「待たせてごめんな。めっちゃ混んでて。あっちで食べよ」
「ありがとう」
人垣から少し離れた石段に腰を下ろし、琉生が買ってきてくれたものを一緒に食べた。
「さっきヨシに会ったよ。琉生待ってる時、声かけられて」
「マジか……!あんな別れ方しといて、今さらよく声かけてこれるよな」
琉生はムスッとした顔になる。
「ほんと、最初はびっくりしたよ。あっちは彼女と一緒だったし。でも、意外と普通に話せた」
「そっか……。そう言われてみれば、スッキリした顔してる。やっぱ女は強いな」
「そうかな?」
「少なくとも、おれっちよりは、な。おれっちの場合、偶然元カレに会っても無言で避け合って終わりそう」
「そうだよね。私も、実際ヨシに会うまではそういう風に思ってたよ。ヨシね、琉生のこと覚えてたよ。ピアノ上手な音大生って」
「いつの記憶だよ、それ」
ラムネを一気飲みし、琉生は言った。
「まあ、でも、良かったな。冷静に話せて。あの時では無理な話も今ならってこともあるし」
「そうだね。会えて良かったのかも」
「でも、元カレと会ったこと、比奈守君には言わない方がいいと思うぜ?」
「なんで?」
「言う気だったのか」
「自分からわざわざ報告はしないけど、そういう話題になったら、ね?隠すことでもないし、やましいことなんてないし……」
「そうかもしれないけど、比奈守君がどう受け取るかは分からないぜ?」
「そう、かな?たしかに……」
比奈守君は、永田先生や田宮君のこともすごく気にしていた。
私の心当たりに付け加えるように、琉生は話を続ける。
「飛星達が付き合う前、おれっち、比奈守君に飛星の元カレの話しただろ?飛星のことちょっとでも知ってもらえたらと思ってそうしたんだけど、比奈守君、ありえないくらい黙り込んじゃって……。歳のわりに落ち着いてて余裕ある子に見えるけど、根は嫉妬深くて独占欲のかたまりかも」
「そうだったら嬉しいな。だって、嫉妬するってことは、それだけ私のことを好きでいてくれてるってことでしょ?」
「まあ、そうだけど。男は女が思ってる以上に不器用だから、あんまいじめてやるなよ?」
普段からいじめられてるのは私の方なんだけどな。恥ずかしいから言わないけど。
「うん。よく分けらないけど、ヨシのことは比奈守君には言わないでおくよ」
「うん、それがいい!ところで、ネックレス紛失事件以来、永田先生とは何もないか?」
先日プールで起きたことを、琉生と純菜には簡単に話していた。それから琉生は、こうして時々永田先生のことを尋ねてくる。