「恋って、認めて。先生」
「うん。こっちが拍子抜けするほど普通に話してるよ」
夜のプールで比奈守君とキスしたり抱きしめ合っていたところを見られ、私は永田先生に対しとてもきまずかったけど、そんな私の心情を知ってか知らずか、永田先生は普通に接してくれている。
「もっと何か言われるかと思ったけど、比奈守君とのことも、学校側には言わないでいてくれてて……。一時永田先生のこと敬遠してたけど、今は改めて感謝してる」
「んー……」
琉生は腑(ふ)に落ちないといったように首をかしげた。
「永田先生、まだ飛星のこと好きなんじゃないか?風邪で休んだ時もお見舞いに来たり、比奈守君と飛星の関係いち早く気付いたり、プールでのことも黙っててくれたり。ただの同僚がそこまでしないと思うぜ?」
「そうだよね……」
なるべく考えないようにしていたことだった。
「聞いてる限り、永田先生は普通にいい人だけど、飛星のこと好きなのに普通に接してくるって、逆に少しこわいような……。比奈守君とのこと学校にバラしたり冷たい態度してくれた方が、飛星的には楽じゃないか?」
「バラされるのは困るよ。比奈守君にとっても絶対良くないし……」
できることなら今のまま、永田先生とは波風を立てず付き合っていきたいと思う。
それに、永田先生のことを悪く思いたくない気持ちもあった。比奈守君とのことで嫌なことを言われたりはしたけど、3年間一緒の学校で働いてきて永田先生の良さもたくさん知っている。
「困った時はいつも助けてくれたし、教師としては尊敬してる。永田先生とは、もう何もないと思いたい」
「……だといいけどな。ちょっと、色々気になることがあってさ」
「気になること?」
落ち着かないのか、琉生はしきりに指先でアゴをさすった。
「この前うちの親が言ってたんだけど、おじさんとおばさん、飛星に見合いさせる気満々らしくてさ。色々心当たりを当たってるらしい」
「お父さん達が…!?その話は、だいぶ前電話でちゃんと断ったのに!」
「それも親から聞いた。でも、おじさん達はまだ諦めてないみたいだぜ?」
「そんな……」
私の知らないところで勝手なことしないでほしい。頼んでもないのに!
親に反発心が湧く一方、そうなるのも仕方ないと思った。私はまだ、親に比奈守君とのことを話していない。
「言いづらいのは分かるけど、本当に見合いさせられる前に、親に話しといた方がよくないか?比奈守君のご両親は賛成してくれてるんだし、おじさんとおばさんだって話せば分かってくれるんじゃないか?」
「言いたいけど……」
許してもらえるかどうか分からない。
比奈守君のご両親は特別に優しかった、特例中の特例だ。学校の教え子と付き合ってるなんて言ったら、うちの親は反対しそうだ。良くも悪くも、普通の親だから。