「恋って、認めて。先生」

 琉生と純菜もそう。私が親しくなる人は常識にとらわれない自由な発想をする人が多い。そんな二人だから比奈守君とのことを見守ってくれるのだし、だからつい甘えて自分は間違ってないと思いそうになるけど、私の価値観と世間一般の思考がズレていることも事実。

「うちの親を説得するのはそれなりの根性が必要だよ。相手が高校生、それだけで絶対猛反対される」
「まあ、なあ……」

 幼なじみの琉生は、私の親のことをとてもよく知っている。プライベートでのみ同性愛者であることをオープンにしている琉生だけど、うちの親にはそのことを秘密にしているし、琉生のご両親も、うちの親には息子(琉生)の恋愛観をいまだに話していないそうだ。

 大学を出るまで不自由なく育ててくれたことは心から感謝しているけど、私はどうも、性格的に親と合わない。ひとつひとつ細かに覚えてはいないけど、昔からそう感じることが多々あった。

「大丈夫!もしお見合いさせられることになっても断ればいいんだから。お見合いしたら絶対結婚しろってわけじゃないし」
「それはそうだけど、おじさんの知り合いと見合いするんならそれなりに断る理由も考えなきゃならないし、大変だと思うぜ?後々おじさんの交友関係にも響くことだし……」
「それもそうだね……。お父さん、そういうの大切にする人だもんなぁ……」
「ちゃんと比奈守君のことおじさん達に理解してもらっておいた方がいいぜ。早いうちにさ。遅くなればなるほど言い出しにくくなるし、比奈守君のためにもさ」

 琉生は言いにくそうに、こう切り出した。

「実は、この前比奈守君に相談されたんだよ、飛星のこと」
「相談って、何を?」

 激しく胸が鳴った。ドクンドクンと、重くて嫌な鼓動。

 そういえば、琉生は比奈守君とラインでやり取りする仲だった。最近二人からそういう話を聞いていなかったのもあり、琉生のその告白に、私はひどく動揺した。

 深刻な顔をする私に気付き、琉生は軽く笑う。

「相談ってのもおおげさか。おれっちが色々訊いて、比奈守君が淡々とそれに答えるって感じ」

 少しホッとする。いくら仲がいいとはいえ、人を頼りあれこれ相談するなんて、自立心の強い比奈守君からは考えられなかったから。

「比奈守君、何て言ってたの?」
「そんな悪い話じゃない。永田先生のこととか、飛星の教師としての立場とか、親のこととか、ちょっと聞いただけ」
「ちょっとどころか、けっこう濃い話してるんだね。聞くのがこわいなぁ……」
「比奈守君も飛星のこと大好きなんだよ。その分やっぱり不安になるんじゃないか?」
「不安に……?」

 前と違い、今はちゃんと口に出して好きだと伝えている。なのにどうして、琉生に話してしまうほどの不安を比奈守君は感じているんだろう?

「比奈守君の不安って、何?私、知らないうちに何かしちゃってた?」
「そうじゃない。飛星がちょっと前まで抱えてた不安と似たようなもんだよ。自分は先生の負担になっていないか、永田先生みたいに大人な男の方がいいんじゃないか、子供な俺なんていつか嫌になるんじゃないか、とか、まあ、そんな感じ?」

 深刻になり過ぎないよう、明るく話してくれる琉生の気遣いがありがたかった。

「比奈守君、そんなこと思ってたんだ……。前の私と、本当にそっくりだね」
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