「恋って、認めて。先生」
好きになればなるほど不安になるーー。その気持ちは、痛いほどよく分かる。だからこそ、すごく嬉しい。比奈守君は、それだけ深く私のことを好きでいてくれてるんだと分かったから。
「告白されたばかりの時は、比奈守君が私から離れてく理由ばかり探してた」
隣の琉生が送ってくる視線を横顔で感じつつ、私は話した。
「年の差や、立場とか、ヨシとのこととか、比奈守君の歴代彼女とか。でも、比奈守君と付き合ってから、だんだんそういう気持ちが薄れてきた。年齢とか立場も越えて、お互い対等に好きでいる。そう思えるの、比奈守君のおかげだよね。好きって気持ちを一生懸命示してくれるから」
「そうだな」
ぽんと軽く私の肩を叩き、琉生は微笑する。
「飛星からそういう言葉が聞けるの、おれっち、ずっと待ってた気がする。秘密の付き合いのしんどさは共感するけど、最終的に大事なのはお互いの気持ちだと思うぜ」
この先何があっても、今の気持ちを忘れるなよ。そう言って琉生は立ち上がった。
「飯も食べたし、そろそろ花火見れる場所に移動しようぜ」
「そうだね。いい場所あるといいなぁ」
混み合う会場の中、私達は見やすい場所に座ることができた。その後、1時間半に渡って花火が打ち上げられた。
体の芯に響く打ち上げ音と、夜空に舞う色とりどりの光。
今見ている花火を、この景色を、比奈守君とも分け合いたいと思った。私はスマホで花火の写真を撮って、それを比奈守君に送った。
彼はまだ塾にいるはずなのだけど、こっそりスマホを触っているのか、返事はすぐに来た。
《綺麗だね。来年は一緒に見よ。》
短い返信。だけど、どんなメッセージよりも心に響いた。
来年の今頃、比奈守君は高校を卒業しているから、堂々と一緒に出かけられる。まだ先の話だけど、彼が未来の予想に私とのことを当然のように描いてくれているのが嬉しくて、涙が出そうになった。
《うん。来年は一緒に行こうね。その時を心待ちにしてる。》
ずっとずっと、繋がっていられますように。
毎年、純菜や琉生と見ていたここの花火。今年はよりいっそう綺麗に見えた。
その日の夜、琉生と別れて自宅アパートに帰ると、エモから電話がかかってきた。
大学の頃仲が良かった女友達、エモ。江森依夏(えもり・えな)だから、皆からエモと呼ばれていた。
彼女は、南高校から近いショッピングモール内でアパレルショップの店員をしている。私はそこの服のデザインが好きなので、半年に1、2度、仕事帰りなどにエモの働くショップで服を買っている。
そのおかげか、大学卒業後もエモとは疎遠になることなく時々ラインで近況報告をし合ったりしていたけど、エモは電話で話すのが苦手と言っていたので、こうして電話がかかってきたことに少し驚いてしまった。
『この前は服買いに来てくれてありがとね。今、ちょっといい?』
「大丈夫だよ。でも、電話なんて珍しいね。どうしたの?」
『電話は今も苦手なんだけど、仕事でちょっとは鍛えられたかも』
笑いながら言い、エモは話を切り出した。
『さっき職場の先輩に誘われてどうしても断れなくて合コン行かなきゃいけなくなったんだけど、それが来週なんだよね。それまでに女の子3人集めなきゃいけなくて……。飛星って、今彼氏いないよね?良かったら来てくれない?』