「恋って、認めて。先生」

 なんてタイミングなんだ……。エモ、私のアパートに盗聴器しかけてないよね?

 私が乗り気でないことを察していたのだろう、エモは気を回してくれたんだ。初対面の純菜のことも気遣ってくれて……。やっぱり、断るなんて出来ない。エモも困ってる。

「もしかしてエモちゃん?」

 純菜が心配そうに訊(き)いてくる。

「うん……。純菜も一緒に、合コンのお礼がしたいって」
「私はいいけど、飛星は大丈夫?」

 琉生につられるかのように胸さわぎがしたけど、きっと気のせいだ。

「大丈夫!比奈守君に理解してもらえるよう、明日ちゃんと話してみるから」
「うん、それがいいね」

 明日は比奈守君の塾が休みで、私も仕事のない日なので、久しぶりに一日中彼と会える予定になっている。その時に、話しておこう。


 それからエモとやり取りし、合コン前までに純菜と共にご飯に行く約束をした。


 心もとない様子で私達の方を見ていた琉生に、私は言った。

「ごめんね、琉生。これからは簡単にこういうこと引き受けないように気をつけるから」
「何かあったらおれっちもなるべくフォローはするけど、あんまりアテにするなよ?」
「分かってる。いつも熱心になってくれてありがとね」

 琉生と純菜。それぞれの優しさに感謝すると共に、明日、久しぶりに比奈守君と会える楽しみで、私は胸を弾ませていた。

 大丈夫。フワフワしてても、他人に影響受けやすくても、私が好きなのは比奈守君だけなんだから!!それだけは自信を持って言える。



 琉生と純菜が帰った後、久しぶりに部屋の掃除をした。最近サボっていたから、あまり目につかない場所にけっこうホコリがたまっている。

 明日、比奈守君がゆっくりくつろいで楽しんでくれますように。願いながら、ベッドカバーを取り替えたりカーペットやソファを念入りに掃除していると、比奈守君から電話がかかってきた。

『今日も仕事お疲れ様』
「比奈守君も、塾、お疲れ様。現代文で、分からないところとかなかった?」
『大丈夫だよ。今は先生モード禁止』

 優しい彼の声音に、胸がドキドキする。

「分かった。電話、久しぶりだもんね」
『飛星の声聞きたいの我慢しながら塾行ってる。今、何してるの?』
「簡単に部屋の掃除してたとこだよ」
『もしかして、明日のために?』
「うん……」

 取り替えたばかりのベッドカバーに目をやり、顔が熱くなる。比奈守君が来る前日の夜にシーツを綺麗なものにするなんて、なんか、そういうことばかり期待してるみたい。

 新しいシーツから漂う柔軟剤の甘ったるい匂いに、胸が高揚した。そんなつもりなかったけど、全く期待していないと言えばウソになる。

「違うからね!?私は別に、そういうつもりはないから!」
『そんなつもりって、どんなつもり?』

 電話口で、比奈守君が意地悪にささやく。まるで直に耳元で言われているみたい。その声にゾクっとし、胸が甘く高鳴った。

「いじめないで?お願い。本当に、ただ、夕に会えるのが楽しみなだけなの」

 泣きそうな声でつぶやくと、比奈守君はうろたえたように言った。

『分かってるよ。ありがとう。だから、そんな甘い声出さないで?』

 照れている彼の顔が、透けて見えるようだった。

『俺も同じだよ。飛星と会う前はいつも楽しみで仕方ない。でも、ごめん。せっかく用意してくれてたのに、明日はアパートに行かないつもりなんだ。電話したのも、そのこと伝えようと思って……』
「そうなんだ。都合悪くなった?」

 明るくそう返したものの、内心一気に落ち込んだ。
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