「恋って、認めて。先生」
『落ち込んでる?』
「ううん!全然っ!夕は受験生だし、色々あるよね、仕方ないよっ」
『どれだけ飛星のこと見てると思ってるの?他の奴は騙せても、無理してるの俺には分かるから』
呆れたように言っているけど、その奥に彼のあたたかさがあるのをひしひしと感じた。
『寂しいなら寂しい、会いたいなら会いたいって、ワガママ言って?物分かりいいフリなんてしなくていいから。そのための彼氏でしょ?』
「夕……」
『頼って、甘えてよ。俺の前では大人ぶらなくていいから。飛星のままでいてほしい』
そっけない言い方だけど、それも照れ隠しなのだと分かる。私もだんだん、比奈守君のことを理解できるようになってきた。
「分かった。じゃあ、言うね」
『うん』
「夕に会えないと寂しいよ。毎日、いつも、夕のこと考えてる。明日のことすごく楽しみにしてたのに会えないなんて、胸が苦しいよ……」
夕に導かれて、私は自分を飾ることなく本音を口にした。すると、我慢していた時より気持ちが楽になる。
「夕にも都合があるのは分かってる。でも、一目でいいから会いたいよ。ダメ?1分でもいいから」
次の瞬間、比奈守君は満足気にこう言った。
『そんなに俺のこと想ってくれてるんだ。嬉しい。でも、明日会えないとは言ってないけど?』
「え?……あ、そう言われてみれば、たしかに。でも、アパートには行けないって……」
どういうこと?私達はいつも、このアパートをデート場所にしていたのに。
わけが分からず首をかしげると、比奈守君は嬉しそうに言った。
『明日は、他県の駅で待ち合わせよ。そのまま向こうで遊んで、1日泊まる。もう、旅館の予約もしてあるから心配いらないよ。一泊分の着替えだけ持ってきてくれればいいから』
「もしかして、それを伝えるために電話を!?」
『そうだよ。じゃあ、そういうことだから、詳しい場所はラインするね』
「ちょ、ちょっと待って!!他県ってどこ?旅館に泊まるってお金は?外泊なんて、ご両親の許可は得てるの?翌日の塾は大丈夫?そもそも、私達、外では会わない約束だよね!?」
『俺達のこと知る人なんてどこにもいないから大丈夫。リサーチにぬかりはないから。あっちでちょうど夏祭りもやるみたいだし、楽しみにしてて?』
「ちょ!他の質問にも答えて!?」
『大丈夫。飛星は何も気にすることない。質問があるなら明日改めて答えるから、じゃあね』
私の戸惑いを無視するかのように、電話は切られてしまった。
その後、本当に比奈守君からラインのメッセージが来て、待ち合わせ場所の住所や駅名、地図のURLが送られてきた。親切に、私が使ったことのない地図アプリのインストール方法やその使い方なども載せている。
「突然すぎるよ!気持ちは嬉しいけど、どうしよう!」
部屋の掃除なんてしてる場合じゃない!必要な荷物をまとめないと!
強引で向こう見ずな比奈守君の言動に翻弄しながらも、私はそれを楽しいと思い、幸せだと感じた。
旅行なんていつぶりだろう!?後で、私の分の旅費払わないと!ううん、ここは大人の私が比奈守君の分も出してあげなきゃ!
合コンの件は気がかりだったし、琉生の忠告を忘れたわけじゃないけど、それすら考えなくてもいいと言いたげに、比奈守君との交際は順調だった。
旅行の仕度で気分を盛り上げ、シャワーを浴び、私は眠りについた。