「恋って、認めて。先生」
無言で、しかもあまりに長く見つめてくるので、耐えられず私は尋ねた。
「やっぱり変だよね。こんな格好、学校ではしないし……」
「ううん。変じゃない」
しばらくの沈黙の後、比奈守君ははっきり言った。
「可愛い。何て言えばいいか、分からなくなるくらい」
「本当?気とか遣ってない?」
「俺にそういう要素ゼロってこと、飛星が一番よく分かってるでしょ?」
「っ……?」
そっぽを向き、比奈守君は私の頭をワシャワシャと撫でる。こんな撫で方もするんだ。
彼の評価を気にして落ちていた気持ちが、一気に浮上する。
「夕がそう言うなら、信じるよ」
自分が二十代で彼より歳上だということは、今でもやっぱり心のどこかで気になってしまうけど、比奈守君が褒めてくれると、私はいつまでも女でいることを許されるような気がして、幸せだった。
「荷物貸して?」
「えっ?でも……」
けっこう重いのに、比奈守君は軽々と私の荷物を持ってくれた。でも、いいのかな?私のよりだいぶコンパクトにまとめてるけど、比奈守君にも自分の荷物があるのに。
「自分のは自分で持つよ」
「ここからバス乗ってけっこう歩くけど、本当に大丈夫?」
比奈守君は意地悪な目をして私を見る。もう、その手には乗らないんだから!
「大丈夫!歩くことも考えて荷物まとめてきたからっ」
「そのわりにけっこうズッシリしてるけど。何持ってきたの?」
「色々だよ、色々っ」
一泊分の着替えだけ持って来ればいいと比奈守君は言ったけど、そういうわけにはいかない。旅とあらばメイク道具だっているし、基礎化粧品やシャンプーも、旅館のものが合わない場合は自分のを使いたい。
「シャンプーとか化粧品とか、いつも家で使ってる物の方が落ち着くし」
「そうなんだ。女の人って、大変だね」
そう言い、比奈守君は不思議そうに目を丸める。
「今まで、彼女と旅行とかしたことないの?」
無意識のうちに、私はそんなことを訊いてしまっていた。