「恋って、認めて。先生」
和解。その言葉で、私は比奈守君のご両親の話を思い出した。
「ご両親から、少しだけ聞いたよ」
「やっぱり……」
照れくささと穏やかさが混じった顔で、比奈守君は語ってくれた。
「父さん達は誤解してたみたいだけど、俺、別に親のことを嫌って長年そっけなくしてたわけじゃない。本当に嫌ってたら、店の手伝いとかしないし……」
「そうだよね。何か、夕なりの想いがあったんだ…?」
「うん」
神妙な顔でうなずき、比奈守君は遠くを見つめた。
「一つ歳上のイトコの兄さんがいい人で完璧過ぎる人だったから、親戚皆、俺と兄さんを比較してて……。親戚で集まるたび、父さん達は俺のことけなされて、だけど言われることに合わせて笑ったりしてて。なんか、親にそんな思いさせるのが申し訳ないっていうか、俺なんていない方が良かったんじゃないかとか、子供心に色々考えて、それで段々、親とすら素直に接する方法も分からなくなって、いつの間にか避けるようになってた」
ご両親は、自分達のせいで比奈守君は心を閉ざしたと言っていたけど、本当はそうではなかったんだ。
「いつの間にか親と向き合うことが出来なくなってて、もう一生このままなんだろなって諦めてた時に、飛星を好きになった」
柔らかい眼差しで、比奈守君は私を見つめた。
「新学期、三年の教室で飛星のこと見て、今までにない衝撃を感じて……。教師だからかもしれないけど、俺がどれだけ無愛想でも、飛星は普通に話しかけてくれた。コーヒーおごり返してくれたり、名前の呼び間違いわざわざ謝ってくれたり……。俺もそういう風に……飛星みたいになりたいと思って親に接したら、長年のわだかまりがウソみたいに消えて」
そうだったんだ。私の意図しないところで、私は彼を動かしていたんだな。
嬉しいような恥ずかしいような。ううん、やっぱり嬉しい。好きな人の力になれたのなら。
「友達の恋愛話も、今まではあまり感情移入出来なくていい加減に聞き流してたんだけど、飛星を好きになってからは相談とかも真剣に聞けるようになって。そういう、今までになかった変化、飛星と出会わなきゃなかったことだよね」
嬉しかった。私が思う以上に、比奈守君の中で私の存在が大きくなっていることが。
「ついでに話すわけじゃないけど」
比奈守君は、私の頭を撫でながら言った。
「夏休み前、C組の女子から告白されたけど断ったから」
「それって、さっきの話の…?」
「不安にさせるかと思って言わないつもりだったけど、黙ってることで不安にさせることもあるって、今日、初めて分かったから、話しておく」
「えっ!?断ったんだ……?」
比奈守君は私のおでこに自分のおでこをくっつけた。
「その『意外』みたいな反応、傷付くんですけど」
「だっ、だって、可愛い子だったし…!」
「俺にとって、可愛いのも好きなのも飛星だけ。他はあり得ないから」