「恋って、認めて。先生」
比奈守君の言葉が、気持ちが、嬉しかった。
表面的には解決したと思ってたけど、心の奥深くで自分に自信のなかった私は、以前の恋の記憶を消せないまま、男性の恋愛感情そのものを疑い続けていたんだと思う。比奈守君に対しても……。
だけど、好きな人に気持ちを疑われたら悲しいという気持ちも分かるから、比奈守君にそんな想いをさせたらいけないと、この時初めて強く思った。
この恋を、1秒でも長くあたためるために、やれることをしたい。自分に自信が持てるように努力したい。
心の中で静かに決意していると、ふと、気になっていたことを思い出した。
「電話で訊こうと思ってたんだけど、夕のご両親は旅行のこと賛成してくれてるの?勝手に出てきたんだとしたらまずいから、私からもちゃんと話さないと。それに、旅費も私が出すから」
付き合ってはいるけど、やっぱり相手は未成年の学生。経済的負担をかけるわけにはいかない。
比奈守君はふうと小さく息を吐き、私の手を優しくにぎった。
「『先生の迷惑考えろ!』って怒られたけど、すでに旅館予約してたから、あとは強引に許可もらった」
「それってほぼ反対されてる、よね…?大丈夫かな?」
わなわなする私に、比奈守君は平然と、そして得意げに笑みを見せた。
「親のお金アテにしてたら何も言えないけど、今回は自分のバイト代使ったんだから親にも口出しさせない。飛星にもお金は出させない」
「そんな話聞いたらなおさら出さないわけにはいかないよっ!バイト代って、ご両親のお店を手伝って稼いだ大切なお金でしょ?」
「家の手伝い以外にも他に色んな短期バイトしてたから、貯金はあるよ」
夕は、つないだ手に力を込める。
「付き合うことになった日、秘密の付き合いは思ってるより簡単じゃない、つらい。飛星、そう言ってたよね。その言葉の意味、俺も最近になってやっと分かった」
「……うん」
「堂々と一緒に出かけられないのとか、他の人に飛星との関係話せないこととか、思ってた以上にハード。好きになればなるほど……」
「……そうだよね」
「だからって別れたいかっていうとそうじゃなくて、大切だから守るためにそうするべきってことも分かってる」
つないだ手を口元に持っていき、私の指先に口づけるかどうか寸前のところで、比奈守君は動きを止めた。
「飛星も同じように大変な思いしてる。多分俺以上に。でも、こういう関係は一生続くわけじゃない。俺が卒業するまで……。1年もしないうちに終わるんだから、それまで、二人でこの壁を乗り越えられるように、つらくても好きって気持ちを忘れないでいるために、そう思って、今日はここに飛星を呼んだ」