「恋って、認めて。先生」
立ち上がると、比奈守君は私の手を取り、言った。
「教師という仕事を通して、飛星の見ている景色を見たいから」
「応援する!夕の夢が叶うのなら、私、何だって協力するから!」
「それって、先生として?それとも、彼女として?」
久しぶりによこされた、彼の意地悪な視線。
「どっちもっ!」
「よく言えました」
「もう!せっかく感動してたのにっ」
ぷいと横を向く私の顔を、比奈守君は追いかけるように覗き込んできた。
「ごめん。つい、いじめたくなって」
いいよ。夕になら、どれだけ意地悪されても。そう言いそうになり、やめた。本当に容赦なくいじめられる気がしたから。
滝を見終え、賑やかな表通りを見て歩いていると、もう、お昼をとっくに過ぎていた。
「途中で色々買って食べたから、ご飯の時間に気付かなかったね」
「ご当地コロッケとか、大判焼きの形したたこ焼きとか、鶏肉の変わったやつとか、地元では食べられない物いっぱい売ってるしね」
「甘い物ばかりだったらどうしようかと思ったけど、夕の食べれる物もたくさん売ってて良かった〜」
「飛星は食べることに目がないね」
「そっ、そんなことないよっ…?民芸品だって興味あるし、ここでしか買えない化粧品とかも、いいのがあったら欲しいな〜」
そう言っているそばから、私は洋食レストランから漂うハンバーグの匂いに頬をほころばせていた。
「飛星、言ってることと顔つきが合ってない」
「だって……」
旅先だと、普段では考えられないくらい食欲が増すと言うけど、本当にその通りだった。比奈守君も、細身のわりにけっこう食べている。
「入ろっか」
私の手を引き、比奈守君は私が見とれていた洋食レストランに入ろうとした。思わず、ストップをかける。
「ちょっと待って!私はいいけど、夕は大丈夫??普段そんなに食べなくない?」
「そんなことないよ。普段はもっと食べてる。育ち盛りだし?」
私に合わせて無理してるかもしれない。
何とかして入るのを断らねばと考えていると、
「ここのオムライスいいらしいよ。下調べの時、旅雑誌にそう書いてあった。ハンバーグとかシチューも評判いいって」
「そ、そうなの!?」
そんな話を聞いたら、断れない……!
「ってことで、行こ。食べ歩きだけじゃ全然足りない」
「本当に大丈夫?夕って細いのに、どこにそんな食欲が!?」
「男だし、今食べた物、夜のダイエットで全部消費されるから、健康管理的にも問題ないよ」
艶やかな笑みを浮かべると、比奈守君は私の耳元でサラリと言った。
「男にとって、女の人1時間抱くのはマラソン10キロに相当する運動量らしいよ。学校で誰かが言ってた」
「なっ、そんなっ……!」
「ってことで、遠慮はナシね。行こ」