「恋って、認めて。先生」
体だけでなく顔面まで熱くさせている私に気付きあえてスルーしているのか、レストランに入った後、比奈守君は涼しい顔でメニューを見ている。
別にそういうことばかり期待してたわけじゃないけど、この旅における夜のことを考えなかったといったらウソになる。
普段はアパートで会うのが普通だから、比奈守君と抱き合う時、意識の片隅で壁の薄さや隣人の聞き耳を気にしていたけど、今夜だけはそういうのを気にせず抱き合うことを楽しめるのかと思ったらドキドキし、いい意味での緊張感が膨らんだ。
新しく用意した下着のことや、見えない部分のムダ毛のことを考えてしまう。こうして年下彼氏と旅行に来る未来を知っていたら、学生の時ワキ以外の場所も永久脱毛したのに…と、後悔する始末。
比奈守君は、やっぱり若い。
毎回、何度私を抱いてもピンピンしてるし、終盤グッタリしている私とは違い、全然疲れた様子を見せない。私が眠気を理由にまったりモードに移行させなければ、何回でもしてきそうな勢いだ。
時間も体力も気力もありあまっていた学生時代、ヨシと付き合っていた時ですら、そんなに求められたことはなかった。
今夜は比奈守君と、どれだけ抱き合うことになるのだろう?
緊張と期待半々にそんなことを考えていると、
「飛星は?」
「私は別に、どれだけしても大丈夫!明日は休みだし……」
思い切った私の告白。比奈守君は小さく吹き出し、私の持つもうひとつのメニューを指差した。
「何食べるか訊いたんだけど?」
からかうような視線に、たまらず体が熱くなる。話がかみ合ってなかったんだ!しかも、私、何てことを!エッチな女って思われたかな!?恥ずかしい……!
「私は、デミグラスソースのハンバーグにしようかな。あと、オレンジジュース」
少しでもビタミンCを摂って、美肌を目指そう!ニッコリ笑ってそう言うことで、恥ずかしい気持ちにフタをしようとした。
「分かった。じゃあ、店員呼ぶね」
比奈守君が注文してくれるのを見届け、店員さんが店の奥に戻っていくと、右手で頬杖をついたまま比奈守君は向かいの私に顔を寄せてきた。
「真っ赤な顔して、何考えてたの?」
「それはっ……。夕は、若いな〜と思って」
今さら隠しても遅いだろうけど、それでも私はごまかした。
「告白してくれたこともそうだし、こうして旅行に来れたことも。きっかけ全部、夕が作ってくれてる。私からじゃ、絶対動けなかったから」
昔は私にもあった。もしかしたら今だって心の奥に沈んでいるかもしれない。『若さ』とは、失敗を恐れない心のことなのだ。
「夕には、身も心も若さが溢れてるよね。ちょっとだけ、それを寂しく思うかな」