「恋って、認めて。先生」
私は、少し前からそのことに気が付いていたのかもしれない。永田先生や田宮君を意識している比奈守君を見ていたから。
比奈守君は、私を好きになって人に突っかかることが増えたと言っていたけど、それは永田先生の件に他ならないだろうし。
いつしか私は食べる手を止め、比奈守君の話をただ黙って聞いていた。
「飛星のこと束縛する気ないし、したくない。されるつらさを知ってるから。でも、その反面、自分だけ見ててほしいって思う気持ちが強くなって、自分が自分じゃないみたいに感じることもある。この先、俺の独占欲のせいで飛星に嫌な思いさせたらごめんね」
そこでようやく、比奈守君は自分のオムライスに口をつけた。おいしいのか、こわばっていた彼の表情はわずかに和む。
「夕の下調べ通りだね。このお店の料理とってもおいしい!」
空気を変えるべく、私は彼に笑顔を見せた。そしたら、
「うん。おいしい」
比奈守君も照れくさそうに笑い返してくれてホッとした。
「おいしい物食べると、元気出るよね。夕も、これ食べてみて?」
私は自分のハンバーグを一口サイズに切り、それをフォークで比奈守君の口元に持っていった。
「俺はいいよ」
「いいから食べて?はい、あーん」
食べさせてもらうのが恥ずかしかったのか、比奈守君は最初じゃっかん抵抗していたけど、私は強引に食べさせた。ここでしか食べられない物なので、どうしても彼と共有したかったのだ。
「ホントだ、おいしい…!」
おとなしくハンバーグを口にし、比奈守君は嬉しそうにそう言った。
「でしょ?なんか、これならもう一皿食べられそう!」
そんな冗談を口にして、私はハンバーグを平らげた。
「飛星も食べて?」
今度は比奈守君がオムライスを分けてくれた。好きな人に食べさせてもらうのは想像以上に恥ずかしいものなんだとその瞬間になってようやく実感し、私はされるがまま口を開けた。
「おいしいっ!タマゴふわっふわ!」
恥ずかしさを忘れるくらい濃厚な味わい。よく知る料理、オムライス。その実態は実に奥が深いなと、その時初めて思った。
「当然かもしれないけど、同じ料理でも、作る人によってこんなに違う物になるんだね。不思議だなぁ……。材料やレシピは、一般的なものとそう変わらないはずなのに」
久しぶりに料理分析をしそうになってしまった。高校に入る前までのクセ。
中学を卒業する頃まで、その料理に何が入っているのかを味覚だけで探り調理法まで見抜くという特技が、私にはあった。それを特技ではなく日常と思うくらい、食べることが大好きだった。