「恋って、認めて。先生」
言霊というものは、本当に存在するのかもしれない。
この時、自分の前向きな言葉に引き出されたかのように、体の中心から目に見えない力が溢れてきた。
「私も、夕を好きになって、夕と同じように、友達の恋の話が分かるようになった。毎日の出来事がキラキラして見えるようになった」
自分の言葉が自分自身に響く。
「今は秘密の関係だけど、永遠じゃないから。将来、地元でもこうやって堂々と出かけられるようになるまで、二人でこの恋を守っていこうね」
「うん…!」
「大好きだよ、夕」
「俺も、飛星のことが大好きだよ」
比奈守君はうなずき、私の手をしっかりした手つきで握り返してくれた。そのたしかなぬくもりが、私をさらに強くしてくれる。
気がかりだった、両親の見合いの件。
琉生にあれだけ忠告されたにも関わらず私は心のどこかで「なんとかなるさ」と逃げの姿勢を作っていたけど、そんなことはもうやめる。
反対されてもいい。
この旅行が終わったら、お父さんとお母さんに本当のことを話して、比奈守君との関係を認めてもらおう。そうしなければ、あの二人のことだ、強引に私を連れ出し見合いさせるだろう。それだけはダメだ。
恋愛相手が自分の教え子だなんて確実に反対されるだろうけど、最悪の場合、認めてもらえなくてもかまわない。
私はもう自立した大人なんだ。親と縁を切ることになっても生きていける。親と険悪になったって、比奈守君の存在を隠したりはしない。
レストランを出た後、私達は近くのお寺や遊園施設を簡単に回った。
夕方を過ぎた頃、いったん旅館まで荷物を置きに行くことにした。夜にはこの辺りで夏祭りが行われるので、出来るだけ身軽になっておいた方がいいと思ったから。
「旅館のそばから、祭の会場までの直通バスが出てるんだって。行こ?」
比奈守君のナビゲートに従い、私は動いた。
「ここまで荷物持たせてごめんね。ありがとう」
「大丈夫。気にしないで」
全く疲れを見せない比奈守君を頼もしいと思いながら、彼に手を引かれて旅館に到着した。
旅館の出入口で待機していた仲居さんが荷物を預かってくれたので、私達は部屋の中まで行かずにすんだ。
比奈守君と手をつないで、会場行きのバスに乗る。今夜旅館に泊まる人のほとんどがお祭りにも行くみたいで、バスは混んでいた。座る場所もすでに空いていないので、立っているしかなさそうだ。
「今朝乗ったバスと大違いだね」
「こんなに混むなんてな。飛星、つらかったら俺の方もたれていいよ」
「ありがとう。大丈夫」
比奈守君の気遣いに頬を緩ませていると、発車時刻になり、バスが発進した。
片手でつり革につかまり、後ろに立つ比奈守君にぶつからないよう気をつけた。だけど、曲がり角などで車体は大きく揺れ、体は何度も比奈守君にぶつかってしまう。