「恋って、認めて。先生」

「あそこの焼きそば、B級グルメ大会で優勝したらしいよ!」

 通りすがりの人が放ったその言葉に、私は意識を持っていかれた。

「焼きそば、最近食べてないなぁ……」

 昼間あれだけ食べたのに、私はさっそくそんなことをつぶやいていた。

「飛星の食べたい物、心ゆくまで食べたらいいんじゃない?時間はまだいっぱいあるし」
「ありがとう…!」
「俺も一緒に食べる」
「食べよ食べよっ!」


 それから、私達は何軒かの屋台を巡って、色んな物を分け合って食べた。フライドポテトにたこ焼き、かき氷に豚汁。

 一回ごとの量が少なくても、それを繰り返していると次第にお腹が膨れてくる。

「お祭りって、どうしてこんなに食べ物がいっぱいなんだろう。誘惑されちゃう」
「飛星が誘惑されるのは俺だけでいいの」
「サラッとそういう恥ずかしいことを…!」
「別に恥ずかしくないよ、俺は」

 膨れたお腹に手を当てて比奈守君とそんな言い合いをしていると、雑貨を売っている露店の主人が、私達に声をかけてきた。

「そこのお姉ちゃんとお兄ちゃん、おそろいで何か買っていかんかね?」

 こういう露店販売に慣れた感じの、快活な話し方をするおじいさんだった。

「そういえば、私達、後に残る物ってまだ買ってなかったよね」

 比奈守君と共に足を止めて、私は店の前に腰を下ろした。比奈守君も合わせてしゃがみこむ。

 ビニールシートを敷いて品物を並べたそのお店には、蛍光色の棒や輪っか、アイドルのクリアファイルなどの他に、宝石を模して造られたアクセサリーがたくさん売られていた。赤や青、緑や透明。様々な色の石が指輪やネックレスの飾りとなって光を放っている。

 イミテーションだと分かっていたし、金属部分が安っぽく見えるのも否めないけど、石が持つその輝きは本物と比べても遜色(そんしょく)ないほど整っていて綺麗だ。

 中でも、私がもっとも惹かれたのは、黄色い石がはめられた指輪だった。明るいその色に、心が反応している。

「触ってもいいですか?」
「どうぞどうぞ」

 見とれていた私の横で、比奈守君が指輪を手に取った。主人の許可を得て、それを私の左手の薬指にはめる。驚くことに、サイズはピッタリだった。

「1回目の試しで合うなんてすごい!ねえ、夕もはめてみたら?」
「でも、指輪ってしたことないし」
「私も普段そんなにしないよ。ね?」

 なかば強引に、私は同じデザインの指輪を比奈守君の指にはめる。もちろん、彼には少し大きめの物を。

「すごい!合ってる!」

 比奈守君の綺麗な指にはめると、黄色の石はより鮮やかに見えた。

「これ、ふたつとも下さい」
「ありがとね、お兄ちゃん!」
「このままつけて帰るので、袋はいりません」
「まいどあり!2千円ね!」

 二人分まとめて買おうと思っていたら、その役割を比奈守君が先に果たしてしまった。
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