「恋って、認めて。先生」
「皆、楽しんできてね!」
「俺らがまわってる時、あっちゃんはどうするの?」
さっきポッキーをくれた田宮君が尋ねてくる。
「他のクラスの先生達とひととおり中をまわる予定だよ。行ってらっしゃい」
「そうなんだ、あっちゃんも楽しみなね。行ってきまーす!」
手を振り返し、皆が中に入っていくのを見送った。そこへ、一足先に自分のクラスの生徒を見送り終えた永田先生がやってきた。
「大城先生、さすがだね。ずいぶん生徒達に慕われてる」
「そんなことないですよ。いけませんよね、教師らしくしなきゃといつも思うんですが、つい、あの子達と居ると自分まで立場を忘れて楽しんでしまうんです」
「それが大城先生のいいところだよ。うらやましいな」
いつも私を励ましてくれる永田先生。今日は、いつになく疲れているように見えた。永田先生が悩んでいることに思い当たることがある。
先日、たまたまトイレで女子達の会話が聞こえて知ってしまったことなのだけど、永田先生は最近女子生徒達に冷たくしているらしい。永田先生に憧れている女子生徒は多いので、それが不満でありショックを受ける子も続出しているとか。
その子達の気持ちも分かるけど、永田先生が女子生徒達に距離を置く理由も分かる気がする。ただでさえ容姿が異性受けする永田先生は、冷たいくらいでないと生徒に変な期待を持たせてしまう。
教師として、生徒のために一線を引いているんだと思う。
永田先生に元気になってほしくて、私は言った。
「生徒との距離の取り方、私もいまだに試行錯誤しています」
「そっか……。大城先生も……」
しまった。後輩のクセに生意気なこと言ったかな?もっと他に気の利いたこと言えたはずなのに……。
後悔したのも束の間、永田先生は微笑し、他の先生達の方に視線をやった。
「今日は楽しむと決めて来たんだ。大城先生が一緒なら、これからも心強いよ」
「そっ、そんなっ」
「僕達も行こっか」
どこか色っぽい目付きで微笑まれたことにドギマギしつつ、私は永田先生と共に先生達の輪に合流した。
ふと視線を感じ館内への入口を振り返ると、比奈守君がこちらを見ていた。しおりを片手にスマホを操作しながら……。
「何かあった?」
問いかけ近寄ろうとすると、勢い良く目をそらされてしまう。
……ドクン。まただ。心臓の音が、おおげさなくらい耳に響く。
比奈守君の一挙一動が気になり、そのたび深く考えてしまう。彼なりに何か意味があるのかもって思ってしまいそうになる。
……これは、恋?ううん、ありえない。視線が合うなんて、単なる偶然だよ。
それから、先生達と水族館をまわり昼食を済ませると、私達教師は各自自由行動をしていいことになった。学年主任の先生の指示だった。生徒達と違い、私達大人は単独行動しても問題はないだろうという判断らしい。
こんなにあっさり一人行動の時間が取れるなんて思わなかった。
永田先生に、まだまわっていない所を一緒にまわろうと誘われたけど、彼はすぐさまスマホで生徒から呼び出され駆けつけなくてはならなくなったのでその話は流れた。