「恋って、認めて。先生」
アパートに着くと、まだお父さん達は来ていないみたいだった。
ホッと胸をなで下ろす時間も惜(お)しい。
急いで鍵を開け部屋に入り、スマホの充電をした。
「早く、早く…!」
充電器をコンセントに差してすぐ電源を入れようとしたけど、相当消耗していたのか、スマホはすぐに回復してくれなかった。
こうしている間にもお父さんとお母さんはこっちに向かってる。車で来ているのだとしたら、もう、そんなに時間はない。
「お願い、間に合って…!」
比奈守君は私より1本後の電車に乗ったはずだから、予定通りここへ来るとしたら、最悪ウチの親と鉢合わせてしまう。
スマホの電源が入るまで1分かかった。このわずかな時間は、気の遠くなるほど長い時間に感じられた。
充電器をコンセントに差したままの状態で比奈守君に電話しようとしたら、それを邪魔するタイミングでお母さんから電話がかかってきた。
無視して比奈守君に連絡したかったけど、やっぱりお母さんの電話に出ることにした。うまいこと言って今日は実家に帰ってもらおう…!
「もしもし!何?」
第一声、何も知らないフリでそう言うと、電話の向こうからは覇気(はき)のない声が返ってきた。
『飛星。今日は仕事休みよね?急に悪いけど、今お父さんとアパートに向かってるから』
お母さんはいつも、私を説き伏せる時、強い口調でハキハキしゃべる。今回もてっきりそういう態度で来られると思っていたので、予想外にも元気のないお母さんの声に、私は肩透かしをくらった。
体調でも悪いのかな?そう思い一瞬ためらったけど、それとこれは話が別。
今日は帰ってもらいたい。そのことを伝えるため、私はきっぱりと言った。
「悪いと思うなら前もって連絡してから来てほしかったな。休みの日は人と会うことが多いから、急に来るって言われても困るよ。今日だって、今まで外に居たんだから」
『相変わらず冷たい子ね。月に一回も帰ってこないんだから、このくらい許しなさいよ』
「私だって色々忙しいんだよ」
お母さん達は、一人暮らしを始めて以来私が実家を避けていることを感付いているらしい。
「これから人と会う約束があるの。近いうちに帰るから、今日は家に戻って?お願いだから」
『友達?だったらいつでも会えるでしょ?今日は断りなさい。大事な話があるの』
「大事な話ならなおさら、日を改めた方がいいよ。こんなバタバタした状態じゃ聞けないよ」