「恋って、認めて。先生」
大事な話とは、きっと、琉生の教えてくれたお見合いのことだろう。だったら、私はなおさら聞く耳を持たない。
娘の都合を無視してまでそんな話を持ちかけてくる親の心情ってものが、さっぱり分からない。お母さん達は親切心かもしれないけど、はっきり言ってありがた迷惑だ。
「そういうことだから、もう切るね」
『待ちなさい!もう着くから。家にいるんでしょう?』
車が、近くの歩道に駐車する音。お父さんの車だ!!
しまった!帰ってもらうどころか、時間の使い方を間違えた!
電話を一方的に切られた後、スマホ画面を見ると比奈守君からラインが着ていた。
《いま駅。もうすぐアパート着くよ》
彼がメッセージをくれたのは5分前。まだ間に合う!?
比奈守君に電話しようとしたら、慌てたかいもなくアパートのインターホンが鳴った。
「飛星、いるわよね!?開けなさい!」
インターホンを鳴らしながら、お母さんはドアまでしつこくノックしてくる。
「待って、すぐ開けるから静かにして!近所迷惑だから!」
結局比奈守君に連絡できないまま、私はお父さんとお母さんを部屋に招かなくてはならなくなった。心臓が嫌な感じにドキドキしてくる。
「何なの、そのチャラチャラした格好は!」
旅帰りの私の服装を見るなり、お母さんは非難まじりに言った。
「教師になって、少しはまともになったかと思えば……。フラフラ遊び歩くために一人暮らしさせてるんじゃないのよ!?」
「電話でも言ったけど、さっきまで出かけてたんだよ。学校ではこんな服装してないから」
親を安心させるためってより、私自身がそれ以上責められたくなくてそう返した。好きな人とデートした帰りにそういうことを言われると気分もふさぐ。
昔は「子供だから」と我慢していたけど、私はもう大人なんだから好きにさせてほしい。お母さんの口癖とも言える過干渉発言は、聞くたびうんざりしてしまう。
「お母さん、さっき元気なさそうな感じだったけど、気のせいだったみたいだね。話って何?」
二人を座らせ、私はしぶしぶお茶の用意をした。
「飛星も座りなさい」
適当なお菓子とお茶を持ってテーブルに行くと、それまでずっと黙っていたお父さんが初めてしゃべった。
「母さんからも電話で聞いてると思うが、お前には見合いをしてもらう。相手に不足はない。きっと幸せになれる」
いつになく重々しい口調で切り出したお父さんを見て、私はきっぱりと拒否の姿勢を示した。
「そういう話だと思った。お母さんには何度も言ったけど、私、結婚する気はないから」