「恋って、認めて。先生」

「ずいぶん若い男だな」

 終始口数の少なかったお父さんのその一言に、私はドキリとした。たかが声。されど声。そこにはけっこう重要な個人情報が詰まっているんだなと改めて気付いた。

 やっぱり、比奈守君をお父さん達に会わせるのは別の機会にした方がいい!本能がそう言ってる。

「今はお父さん達と話してるし、やっぱり彼には帰ってもらうよ」

 おずおずと玄関に向かう私を、お母さんは強く止めた。

「何言ってるの!せっかくだし私達にその人のこと紹介してちょうだいよ。ただでさえ飛星は滅多に帰って来ないんだから、今がいい機会よ。ねえ?あなたもそう思うでしょ?」
「そうだな。一目見たらすぐ帰る」

 ここまで来て比奈守君を帰らせるのは不自然。覚悟を決めるしかなかった。

「分かったよ。彼のこと紹介する。でも、どんな相手でも驚かないでね?」

 念を押すと、お父さんとお母さんはいぶかしんだものの、うなずいてくれた。そのことにホッとし、私は玄関扉を開けた。

「飛星の好きなプリン買ってきた。生クリーム付きの」

 さっきまで当たり前のように手をつないでそばにいた比奈守君。そのまっすぐな瞳を見て、私は胸が締め付けられるのを感じた。

 奥にいるお父さん達に聞こえないよう、私は小声で比奈守君に説明した。

「出るの遅くなってごめんね。さっき急にお父さんとお母さんが来て、今まで色々話とかしてて。上がって?」
「そうなんだ。でも、俺なんかが入っていいの?」
「大丈夫だよ。親も、夕に会いたいって言ってて……」

 こんなの、高校生の男の子には絶対荷が重いに決まってる!

 比奈守君の反応がこわくてうつむくと、私の肩を励ますように叩き、比奈守君は晴れやかな顔で快くうなずいた。

「分かったよ。挨拶する」
「でも、ウチの親、夕のご両親と違って頭固いから、夕を見たら絶対嫌なこと言うと思う……。もしそうなったらごめんね…?」
「飛星の親に会いたいって言ってもらえるの、嬉しいよ。何があっても大丈夫だから」

 比奈守君の頼もしさに、涙が出そうになった。

 比奈守君のご両親に本当のことを知られた時も、今も、私はビクビクしている。比奈守君は、そんな私の弱さを全て吹き飛ばす勢いで、堂々と奥の部屋に足を踏み入れた。


「お父さん、お母さん。彼が、今お付き合いしている比奈守君です」
「初めまして。こんにちは。比奈守夕といいます」

 私の学生時代よりしっかりした比奈守君の挨拶姿を見守っていると、お母さんは品定めするかのようにぶしつけな眼差しで比奈守君に詰め寄った。

「比奈守さん。失礼ですが、あなたはずいぶんお若いですよね。ご年齢は?」
「18歳になります」

 無言でその様子を見ていたお父さんの眉間に深いシワが刻まれるのに気付き、私は一気に緊張した。
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