「恋って、認めて。先生」
どんな人が相手でも驚かないでね。先にそう念押ししたのも、無駄だった。
比奈守君の年齢を知るなり、お母さんはあからさまに不機嫌になり、鋭い視線を私に向けた。
「まだ未成年じゃない!正式なお付き合いをしてるって言うから、結婚相手を紹介してくれるんだとばかり思ってたんだけど!?」
「お母さん、落ち着いて?比奈守君の前だよ…!」
「これが落ち着いていられますか!アンタって子は、25にもなって夢ばっかり見て…!一体何考えてるの!!現実を見なさい!」
火に油。私が何を言っても、お母さんは納得しそうになかった。血走った目に涙を浮かべ、悔しげな顔をしている。やり場のないお母さんの感情は、そのまま比奈守君にまで飛び火した。
「あなたはまだ高校生なのよね?飛星とはどういうご関係?」
「真剣にお付き合いしています」
比奈守君は冷静に答え、お母さんと向き合う。私には、比奈守君が緊張しているのが分かるけど、彼のことをよく知らない人からしたら、今の比奈守君は相変わらずポーカーフェイスそのもの。その要素は、時に周囲に誤解を与えてしまう。
この時もそうだった。
お母さんは、冷静な比奈守君にますます腹を立てた。高校生が大人に向かって生意気な態度をして!などと思ったのかもしれない。
「……ずいぶんふてぶてしい子ね。真剣にお付き合い?笑わせないでほしいわ」
自分より背の高い比奈守君をにらみつけ、お母さんは厳しく言い放った。
「親に養ってもらっている身でよくそんなことが言えるわね。飛星はいい大人なの。結婚適齢期なの。あなたのような子供に、飛星と結婚し支えていく力はある?ないでしょう?身の程をわきまえなさい!」
「お母さん、やめてよ!!」
耐えられず、私は口を出した。
私は何を言われてもいいけど、比奈守君のことを悪く言われるのだけは嫌。たとえ親でも……。
お母さんの怒りはおさまることなくどんどん加熱していく。
「私は認めないわよ!いい?飛星にはお見合いしてもらいます!」
「お見合い!?」
お見合い。その単語に、比奈守君は目を見開き、驚きをあらわにした。
「前からしろって言われてたの……。私はする気ないけど、お母さん達はしてほしいみたい。今日来たのもその件で……」
私は手短にそう説明した。お母さんやお父さんに言われるより先に、自分から比奈守君に話しておきたかった。
お母さんは嫌味のごとく私の顔を見て大きくため息をつく。それに加勢するかのように、今度はお父さんが静かに口を開いた。
「比奈守君。君の気持ちは分かった。だけど、交際は認められない。この子にも未来がある。そろそろ将来のことを真剣に考えてもらわないと、親としても困るんだ。悪いが、別れてくれないか」