「恋って、認めて。先生」
「そうよ!今すぐ飛星と別れてちょうだい!そもそも、あなた達の交際を認めた覚えはないんだけど」
お父さんに加勢して、お母さんまで強く主張する。
昔から二人はこうだった。自分が正しい、そう思うことを、頭から私に押し付けてくる。そういう場面に出くわすたび、私が幾度となく心折れそうになったことを、この人達は知らない。
たしかに、二人はいつも正しかった。周囲の人達からも素晴らしい人だとか理想的な親だと称えられることがしょっちゅうで……。
今だって、客観的に見たら正しいのはウチの両親。間違いを重ね、批判されるべきなのは私だ。分かってはいたけど、比奈守君が責められることには、どうしても納得いかなかった。
怒りのような悲しみと悔しさで全身が熱くなる。気付くと私は、両親に向かって大声を上げていた。
「いい加減にしてよ!」
人に対して激しい怒りをぶつけたのは、この日が初めてだった。
「間違ってることくらい分かってるよ!それが何?お父さん達はいつも正しい!でも、そうやって生きられる人ばっかりじゃないんだよ!っていうか、好きな気持ちに正しいとか間違いなんてあるの?年齢差が何?結婚適齢期?そんなの知らないよ!!自分の幸せは自分で決める!自活してるんだから、もう私のことは放っておいてよ!!お見合いなんてしないし、比奈守君と別れるなんて嫌!」
言い終わった瞬間、疲労感とめまいがおそってきて、景色が反転しそうになった。
「飛星……!」
倒れそうになった私の体を、比奈守君が背後からとっさに抱きとめてくれる。
お父さんとお母さんは目を見開き、放心状態でかたまっていた。大声で反抗する娘の姿を初めて目の当たりにし驚いたのだろう。緊迫し通しだった空気は、私がふらついたことで緩んだように思う。
私をそっとベッドに座らせると、比奈守君は緊張した面持ちでお父さんとお母さんを見た。その目は、告白してくれた時以上に真摯(しんし)だった。
「お父さんとお母さんの言う通りです。俺はまだ高校生で、大人の男性みたいに生活力はありません。大学に行きたいので今すぐ結婚も出来ません。でも、飛星のことが好きな気持ちにウソはないし、これからも大切にしたいと思っています。なので、飛星にお見合いしてほしくありません」
「夕……」
私は今、ただただ嬉しかった。比奈守君の言葉はもちろんだけど、彼女の親に対して怖気付くことなく堂々と意見を口にする……。そんなの、よほど強い気持ちがないと出来ない。
不謹慎なのだけど、比奈守君の気持ちを再確認できた気がして、内心感激してしまう。