「恋って、認めて。先生」
一方、やはりと言うべきか、お母さんはあからさまに不満げな表情をし、お父さんは腕組みをしながら気難しい顔で比奈守君の言葉を聞いていた。
「俺達のこと、認めて下さい。お願いします」
比奈守君はその場で正座をし、お父さん達に向かって頭を下げた。その姿を見て、私は、親に怒鳴ったことを瞬間で後悔した。
私が先にそうするべきだったのに、比奈守君にこんなことをさせてしまった。親とケンカしている場合じゃなかった……!
「私からもお願い……!」
急いでベッドから下り、私は比奈守君の隣で彼と同じように土下座をした。
「比奈守君と付き合うこと、許してほしい……!お願いします!!」
どのくらいそうしていたんだろう。胸は激しく鳴り続け、頭がひどく痛んだ。
「頭を上げなさい」
お父さんの困ったような声。比奈守君と私は、そこでようやく顔を上げた。
「飛星。比奈守君とは、どうやって出会ったんだ?」
お父さんが尋ねてくる。
「正直に答えなさい」
その質問に、私は希望を持った。私達の気持ちがお父さんに通じたのかもしれない!
お父さんの横に座り何か言いたげなお母さんの視線に気付かないふりをして、私は答えた。
「比奈守君は、南高校の生徒です。今年、私が受け持つことになったクラスの……教え子なの」
「何ですって!?」
お父さんの反応を遮るように、お母さんが再び目を尖らせた。
「あなた、そんなことするために教師になったの!?なんて恥ずかしい……!!もう、近所や親戚に顔向けできないわ!どうしてくれるの!?」
「お前は黙っていなさい。……やはりそうか。飛星の勤める学校の生徒さん、か」
お母さんと違い、お父さんはいたって冷静だ。最初ここへ来た時より穏やかに見えるその口調が、私の不安を和らげた。でも、それは一瞬のことだった。
「人生経験の浅い高校生にありがちなことだ。教師としての対応に期待を膨らませ、いつしか恋愛感情と勘違いしてしまう。いつの時代も変わらないものだな。私の学生時代にも、少なからず周囲でそういう話はあった」
「お父さん……?」
何を言ってるの!?
比奈守君も私と同じことを思ったらしく、すぐに反論した。
「違います。勘違いじゃありません。教師としてはもちろんですが、俺は飛星のことを女性として心から好きです」
「一生愛し抜く自信があるのか?」
「はい。もちろんです。だから付き合っています」