「恋って、認めて。先生」

「若い君に、愛だの誠実さなど語れるのかね?片腹痛い」

 侮蔑(ぶべつ)の笑みを見せた後、お父さんは冷ややかな声で比奈守君に言った。

「中学生高校生といったら、もっとも異性に興味のある年頃だ。身近な教師に惹かれるのも仕方ないだろう。だがな、それが自分の娘の話となれば話は別だ。一時の感情で娘を振り回してもらっては困るんだよ」
「一時の感情や興味本位なんかじゃありません」

 そう返した比奈守君の声には、緊張だけじゃなく、お父さんに理解してもらえないことへの苛立ちが混ざっているような気がした。

「出会い方を見たら、そう言われるのも仕方ないと思います。お父さんが心配になるのも分かります。でも俺は、飛星とは出会うべくして出会ったんだと思っています。彼女のことが必要なんです。別れたくありません」
「そうか……。分かったよ」

 お父さんはゆっくり立ち上がり、私に向かって手を出した。

「飛星。お前の携帯電話を貸しなさい」
「……うん?はい」

 なぜ急にスマホ?そう思いつつ、訊けない雰囲気だったので、私はおとなしくお父さんにスマホを渡した。お父さんはそれをおもむろにポケットに入れ、玄関に向かう。

「お父さん!?ちょっと…!?」
「あなた、どこへ行くの?話し合いはまだ終わってないわよ!?」

 私同様、お母さんも、お父さんの行動の意味が分からないようだ。

「この携帯電話は解約する。今から店に行ってくる」
「えっ!?待って!それは困るよ!」

 私は急いでお父さんを追いかけ、玄関先で引き止めた。

「学校や友達から連絡が来るかもしれないの!」
「この携帯電話は、学生の頃から私の名義で契約していたんだったな。これからは別の携帯電話を使ってもらう」
「どうして!?そんな面倒なことしてられないよ」
「比奈守君と別れてもらうためだ。これには彼の連絡先が入っているんだろうしな」

 冷静ながらも厳しい目つきで、お父さんは言った。

「話しても通じない相手にはこうするしかない。いつか比奈守君は心変わりする、私はそう思っている。彼の言葉は何ひとつ信じられない。若すぎる」
「そんな……!私達のこと理解してくれたんじゃなかったの?」
「説得を諦めただけだ。理解もできないし、お前達の交際を認める気もない」

 追い討ちをかけるように、お父さんは平然と告げた。

「さっき言っていたな。自活しているから私生活のことには口出しするなと。だが、このアパートの保証人は私だ。敷金礼金を出したのも私と母さんだ。家賃を払っているだけで大きな顔をされても困る。ここは引き払うから、家に戻れるよう、今のうちに準備をしておきなさい。比奈守君と別れないならな」
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