「恋って、認めて。先生」
「待って下さい!いくらお父さんでも、それはやり過ぎじゃないですか?」
私を追いかけてきた比奈守君が、お父さんに言った。
「失礼ですけど、子供は親の所有物じゃないですよね」
「何だと…?」
お父さんのこめかみに血管が浮かび上がった。本気で怒っている証拠……。
そばで私達の話を聞いていたお母さんは、ここぞとばかりに比奈守君を責め始めた。
「さっきから聞いていれば、何て子なの!?所有物だなんて……!若いから、言っていいことと悪いことの区別も出来ないのかしら?」
「お母さんこそ、そういう言い方は良くないよ!」
比奈守君を、これ以上悪者にしたくない。私が言い返した時、それを遮るように比奈守君が私の腕に触れた。
「大人から見たら高校生は子供で未熟かもしれない。でも、自分なりに善悪の判断はできるつもりです。お父さんとお母さんは、どうして飛星の嫌がることをするんですか?」
「まあ……!次から次へと!親御さんの顔が見てみたいわね!」
顔を赤くして怒るお母さんを見て、お父さんが比奈守君に言った。相変わらず落ち着いた口調のお父さんが、この時少しこわく感じた。
「何とでも言えばいい。人それぞれ、子供の育て方は違う。ウチはこういうやり方だというだけだ。君の価値観に合わない以上理解してもらおうとも思わないが、私達は誰よりも飛星の幸せを願っているし、君以上の相手を娘にあてがう自信があるよ」
「……そうですか。分かりました」
比奈守君も比奈守君で落ち着いていたけど、その感じはお父さんとは全く違うものだった。
比奈守君は、この場の全員に向けて、言った。
「今すぐには無理だけど、将来的に飛星を幸せにするのは俺です。飛星も俺以外の人は選ばないと思います。飛星のスマホや住む場所が変わっても、好きな気持ちは変わりません。時間をかけて、お父さんとお母さんにも理解してもらいます。『所有物』は言い過ぎました。本当にすみません」
「あなたねぇ!!謝ればいいってもんじゃないでしょう!?」
興奮するお母さんをなだめ、お父さんは難しい顔をした。
「好きにしなさい。何を言っても反発するだけだ。飛星もじきに目を覚ますだろう。見合いをすればな」
「ちょ、お父さん!その話は断ったよね!?」
「向こうは乗り気なんだ。気に入らなかったら断ってもいいから、一度会ってみなさい」
「そんな……。どうしてそんなに私を結婚させることにこだわるの?」
今は一生独身で通す人も多い時代なのに……。